スウェーデンの首都、ストックホルムより北西に位置するダーラナ地方は、雄大な自然が広がる閑静なエリアだ。透き通った湖がいくつもあり、川が緩やかに流れ、鬱蒼と深い森がどこまでも続く。ここはスウェーデンの原風景が色濃く残る地域として親しまれている。木立に囲まれた緑の林道、若草が揺れる湖のほとり、小高い丘、あちこちに可愛らしい赤い木の家が建つ。
この、点在する木造の家々。そのほとんどが赤褐色で統一されている。ファールンレッドと呼ばれる、スウェーデン伝統の赤だ。その名は、ダーラナ地方のいわば県庁所在地「ファールン」に由来する。そこはかつて、世界に誇ったファールンの大銅山があった場所だ。ファールンレッドとは、ファールンで採れた鉱物を原料とした塗料のことをいう。
ファールンでの銅採掘が最盛期を迎えるのは17世紀のこと。産出量は圧倒的で、全世界の銅生産の3分の2を占めるほどになる。この頃には、銅山の副産物としてファールンレッドも活用されていた。レンガ造りを思わせる赤の色合いに、当時の人々は魅了されたのだという。銅山とともに町は繁栄し、人口は増え、赤く塗られた木造の邸宅が次々と立ち並んでいく。酸化鉄を含むため、木材の保護剤としても効果的だった。
ミャンマーの茶畑
漬けた茶葉と食材を混ぜあわせる
1992年の銅山廃坑後もファールンレッドの生産は続き、いつしか国中に広まっていく。現代に至るまで、その高い防腐性と耐久性とで、木造の建物を厳しい自然環境から守ってきたのだ。
スウェーデンの原風景に欠かせない、赤い彩り。それこそは、国の繁栄を支えた銅山の確かな名残だった。爽やかな初夏の空の下、湖畔にたたずむ赤のなんと美しいことだろうか。
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