渡辺 裕希子=文

 バルト海へとつながるメーラレン湖に美しい姿を映すストックホルム市庁舎は、スウェーデンの建築家であるラグナル・オストベリによって設計されたストックホルムのシンボル。水辺に佇むこの重厚な建物で、毎年アルフレッド・ノーベルの命日である12月10日に、ノーベル賞の授賞祝賀晩餐会が華やかに催される*。

 市庁舎の見学ツアーで最初に訪れるのは、四方を赤レンガで囲まれた「青の間(ブルーホール)」。赤レンガなのに青と名付けられているのには理由がある。設計段階では、イタリアのピアッツァを模した屋根がなく青空が見える建築を予定していたが、北欧の厳しい寒さと雨量を考慮してレンガを青く塗る計画に変更。だが、完成が近づくにつれて、赤レンガの美しさを守りたいとの声が上がり、そのまま残すことになったという。既に市民には設計当初の「ブルーホール」の名が浸透していたため、建築計画変遷のストーリーとともにその名で親しまれるようになった。赤レンガに施されている凹凸は、光と音を柔らかく反射させるための工夫。高い天井からは陽光が差し込み、床には青灰色の大理石が広がる。シンプルななかにも計算し尽くされた空間には、世界で最も権威ある賞の晩餐会にふさわしい気品が漂う。

 舞踏会の会場は、2階の「黄金の間(ゴールデンホール)」。こちらはローマのビザンチン建築から影響を受けているとされ、豪華絢爛。隅々まで金箔のモザイクで飾られ、まばゆいほどの輝きに圧倒される。舞踏会の様子を想像しながらステップを踏めば、ひとときの受賞者気分に浸れるかもしれない。

 中世の街並みを残すガムラスタン(旧市街)にある「ノーベル博物館」にも足を運ぼう。歴代受賞者のパネルに加え、受賞者に贈られるメダルや招待状などが展示されているほか、併設の「ビストロノーベル」では、晩餐会と同じデザートを味わえる。

 1901年に第1回の授賞式が行われ、100年以上の歴史を刻んできたノーベル賞。ゆかりの地、ストックホルムでその歴史と意義に触れたい。

  • *平和賞の授賞式のみオスロ市庁舎で開催

〔青の間〕晩餐会当日には約1,300人もの人が集う「青の間」。内部を見学するには、市庁舎入口でツアーに申し込む必要がある。ツアーは英語や中国語のみだが、言葉が分からなくても参加する価値あり。

〔黄金の間〕約1,900万枚もの金箔のモザイクで彩られた「黄金の間」。目をひくのが、壁の中央に描かれたメーラレン湖の女神。膝にはストックホルムの街を乗せ、左側に自由の女神やエッフェル塔などの西洋、右側にはモスクなどの東洋のイメージがデザインされ、ストックホルムが世界の中心であることを示している。

〔ノーベル博物館〕ガムラスタン(旧市街)の大広場にあるノーベル博物館(左)。旧証券取引所の一部を改装して2001年に設立された。外観は重厚だが内部はモダンな造り。