渡辺 裕希子=文
佐賀県の東松浦半島の突端にあり、荒々しい玄界灘に面した唐津市呼子町。人口3,000人にも満たない小さな町だが、休日ともなれば国内外からの観光客でにぎわい、海鮮料理店の前には長い行列ができる。彼らの目的は、「イカの活き造り」。人気が高いケンサキイカは3月下旬から12月に、厚みがあるアオリイカは11月下旬から4月に旬を迎え、1年中楽しめる。
漁師は1匹ずつ丁寧に釣り上げたイカを直接店まで持ち込み、呼子湾から汲み上げた海水を循環させた生簀(いけす)で、鮮度を保つ。温度変化に弱く、触れただけでも人間の体温のせいで死んでしまうと言われるイカを、活き造りで提供できるのは呼子町民の情熱と努力の賜物だ。注文を受けてから、熟練の職人が慎重かつ素早く包丁を入れ、さばく時間はわずか数十秒。皿の上でウネウネと踊る透き通ったイカは、コリコリとした歯ごたえで、噛むほどに濃厚な甘みが広がる。
呼子の魅力は、イカだけにあらず。荒波がつくりだした、神秘的な7つの洞窟が並ぶ「七ツ釜」は、国の天然記念物。遊覧船に乗って洞窟のなかに入り、手を伸ばせば岩壁に触れられそうな距離まで近づくクルージングも人気だ。また、1泊して、日本三大朝市のひとつに数えられる「呼子朝市」を楽しむのもいい。約200メートルの通りには20~50軒の露店が並び、佐賀弁のかけ声が飛び交う。5月から9月には殻付きのウニをその場で開いて食べることもでき、散策の足取りが軽くなる。
呼子町へは、福岡市内から車で1時間強と、ドライブにちょうどいい距離だ。美味しい海の幸が食べたくなったら、ぜひ足を運んでみて欲しい。
〔呼子朝市〕元旦以外、年間364日開催される「呼子朝市」。名物のイカの一夜干しやみりん干しはお土産におすすめ。
写真提供:佐賀県観光連盟
〔七ツ釜〕「七ツ釜」を間近に眺める遊覧船はスリル満点。波が高い時間帯は、洞窟のなかに入れないので注意。
写真提供:佐賀県観光連盟