アフリカ北西部に位置するモロッコ。西は大西洋、北は地中海に面し、国の中央にはアトラス山脈が連なる。そして、南には美しいサハラ砂漠。大自然に囲まれ、肥えた土壌があり、農業も漁業も盛んなモロッコは、新鮮な食材が豊富に揃う国だ。

 

 代表的な料理で有名なのが、タジン。タジンはモロッコ伝統の陶製の鍋「タジン鍋」で煮込んだ料理のこと。旬の野菜と肉を、相性の良いスパイスとハーブでじっくり時間をかけて蒸し煮にする。町の食堂で、屋台で、食卓で、人々が毎日食べている家庭料理だ。

 

 円すい状の愛らしい形をした蓋、鮮やかな色合い、繊細な幾何学模様など、エスニックで美しいデザインも魅力的なタジン鍋。そのルーツは、砂漠に生きる人々の知恵にあるという。

南に広がるサハラ砂漠

モロッコ料理に欠かせない多種多様のスパイス

 乾燥した砂漠地帯では、水はとても貴重なもの。タジン鍋の大きな特徴は、素材の水分を生かした無水調理ができること。ずっしりと重たい三角の蓋は、蒸気をしっかり閉じ込めて逃がさない。立ち上る蒸気はやがて蓋の先端で冷やされ、また鍋の中に落ちてくる、という仕組み。素材の味がギュッと凝縮され、旨みも栄養も丸ごといただける。これこそ、タジンの醍醐味!さらに、モロッコ料理に欠かせない多種多様のスパイスが料理の味をぐっと引き立てる。

 

 アラビア語で「店一番の」という意味を持つ「ラスエルハヌート」は、何十種類ものスパイスを調合したミックススパイス。お決まりのレシピはなく、シェフや店主がそれぞれに自信を持って調合するオリジナルだ。そう、スパイスも具材の組み合わせもアイデア次第。どこまでも広がる味わい深い砂漠の料理に、すっかり夢中になってしまう。

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