タイ・メコン川を原産とする熱帯魚、ベタ。和名を「闘魚」という。美しく優雅な見た目に似つかわしくないと思えるが、由来となっているのはベタの激しい闘争性だ。ベタはオス同士が激しく争い、傷つけあって戦う。原産国のタイでは、その闘争性を利用した賭博が、古来より娯楽として広く楽しまれてきたという歴史もある。

 

 ベタが相手を攻撃する際、長く伸びたヒレやエラを大きく広げて威嚇するのだが、この姿がなんとも美しい。それはまるで艶めくシルクのドレスだ。ひらひらと水中を舞うかのように、幻想的なのである。この容姿の特徴から、観賞用の熱帯魚として世界中で人気を博すこととなった。

 

 より強く、より美しく。ベタは何百年も前から品種改良が盛んに行われ、現在では色も品種も驚くほど多彩に存在している。

歴史を重ねて人々は人工的にベタを作り出してきた。それはたとえば、燃えるような真紅に身を包んだベタだ。細い体の何倍も長く伸びたヒレは真っ赤に染め上げられ、およそ現実とは思えない色彩の造形美に圧倒される。流れるようなヒレを広げて威嚇する姿は絵に描いたように緻密で、息をのむほどに美しい。

日干し手延べ麺・關廟麵(グアンミャオメン)

暖かな日差しに照らされる台南の小麦畑

 その姿に重ね、想うことがある。メコン川流域。小さな止水域でひたむきに生きるベタの野生種。多くの淡水魚と同じように、生息環境の破壊と消滅によって個体数の減少が確認されているという。まるで夢のような色彩に宿るのは、紛れもない命の輝きと尊厳であろう。生息地の保全への取り組みが進むことを願ってやまない。

旅のきっかけになる、2つのコラムを隔月で連載中!