2025年8月28日
国境を越えて個人がネットで商品やサービスを購入する「越境EC」。その市場規模は年々拡大を続けており、日本でも新たな市場開拓やビジネス展開の手段として、大きな注目を集めています。この記事では、越境ECに関する基礎知識や市場の動向、越境ECの拡大によって急激に高まっている航空貨物輸送ニーズに対応するためのJALCARGOの取り組みまで、分かりやすく解説していきます。
越境ECとは?
越境ECとは、国境を越えたEコマース(電子商取引)、つまりECサイトを通じて国内だけでなく海外にも商品やサービスを販売することを指します。グローバル化が進む中で、今後も市場が拡大していくことが見込まれ、日本でも大きな注目と期待が集まっているのです。
まずは、越境ECのメリット・デメリットと、主な事業モデルはどういったものなのかについて、基本的なポイントを紹介します。
越境ECのメリット
越境ECにおける事業者の主なメリットとしては、国内市場が縮小する中、海外の多くの顧客をターゲットにできること、現地に実店舗を出すよりも大幅にコストや負担を抑えて海外展開できることなどが挙げられます。近年は参入しやすいプラットフォームや流通環境も整っており、中間業者を通さないため、利益率の向上につながる可能性もあるでしょう。
越境ECのデメリット
逆にデメリットとしては、商品の説明やサポートを現地の言語で行う必要があること、販売先の国の法律や規制への対応も必要なことなどが挙げられます。また、国内ECより輸送コストがかさみ、輸送の途中で商品が紛失するリスクがあることも無視できません。外貨決済の場合、為替変動リスクがあることにも注意が必要です。
越境ECの事業モデル
越境ECを行うには、さまざまな事業モデルがあります。国内事業者にとって最も手軽なのが、越境ECに対応した日本国内のECモールに出店・出品することです。すでに充実した自社サイトを国内で運営している場合は、それを多言語化、越境EC対応にする方法もあります。少しハードルは高くなりますが、製品を販売する相手国のECモールやECサイトに出店・出品する、相手国で自社サイトを構築して運営する、といった方法もあります。
拡大を続ける越境EC市場
越境EC自体は1990年代後半からありましたが、2010年代後半からスマートフォンやAI翻訳の普及、ECプラットフォームの多言語対応、デジタル決済の標準化などにより、右肩上がりで市場が拡大。さらにコロナ禍により、ネット通販や電子決済が大きく普及したことも、越境ECの拡大を後押ししました。
今後も、世界全体におけるECそのものの拡大、プラットフォームや流通、輸送の進化により、越境EC市場が拡大していくことは確実です。経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査」では、世界の越境EC市場規模は2030年には7兆9,380億USドルと、2021年(7,850億USドル)の10倍に達するとの予測が紹介されています。
ちなみに、令和5年の日本の越境EC購入額は4,208億円(前年比6.4%増)、アメリカが2兆5,300億円(14.4%増)、中国が5兆3,911億円(7.7%増)。同年に中国の消費者が日本の事業者から越境ECで購入した総額は2兆4,301億円と、前年比7.7%も増えています。
越境ECの拡大で高まる航空貨物輸送ニーズ
越境ECの拡大とともに今、世界的に航空貨物輸送のニーズも高まっています。海上貨物輸送より輸送日数が短い航空貨物輸送は、商品を少しでも早く受け取りたいというニーズが強い越境ECに欠かせません。地政学的リスクや自然災害の影響を比較的受けにくいことも、安定した輸送が求められる越境ECにおいて重要です。
羽田ディストリビューションセンター(以下、羽田DC)で輸出入業務に携わる片山は、越境ECの拡大による航空貨物輸送ニーズの高まりについて次のように語ります。
「近年、越境ECと思われる荷物の輸出入はすごい勢いで増えています。私たちが現在、羽田で扱っている貨物の9割は中国からの輸出入で、そのうち輸入が7割、輸出が3割ほど。日本の若い女性がファッションアイテムなどを取り扱うECプラットフォームを使い、衣類や雑貨、コスメなどをよく買われているようです。
アプリから簡単に購入できるなど、ここ数年でプラットフォームの使い勝手が非常によくなっていることもあり、おそらく大多数の人は単純に自分がかわいいと思ったもの、安いと思ったものを購入しているのではないかと思います。そういった背景もあるので、今後も越境EC絡みの荷物の扱いは、右肩上がりで伸びていくでしょう」
増える航空貨物輸送ニーズに対応したJALCARGOの取り組み
越境ECとともに高まる航空貨物輸送のニーズに応えるべく、JALCARGOではさまざまな新しい取り組みを始めています。その詳細について、片山に解説してもらいました。
スピーディーな輸配送を可能にする羽田DC
「空港に到着した荷物をいかに早く国内のお客様へお届けするか。国内メーカーの倉庫にある荷物をいかに早く空港へ届けるか。越境ECの拡大により、輸出入業務だけでなく、国内の物流全体をいかに効率化するかが大きな課題となっています。JALCARGOでも現在、そのためのさまざまな取り組みを進めています。その一貫として2019年から運営しているのが、三井不動産インダストリアルパーク羽田の3階にある羽田DCです。
羽田DCは首都高速羽田ICから600mの場所にあり、羽田空港へ直接搬入搬出ができます。そのため、越境EC関連の荷物を従来よりスピーディーに高速輸送することが可能になりました。現在、ECの拡大、競争により国内輸送量が拡大する中で、お客様にお届けするまでのリードタイム維持・向上が求められる一方、運送業者は人手不足や残業規制により輸送ニーズへの対応が難しくなってきています。そこで、国内輸送も含めた流通網全体を考え、輸出入通関で必要となる保税倉庫への搬入、また付随する付帯作業を効率的に行うことでより円滑な貨物の流通を私たちが担う。そのような観点から輸出手倉サービスや輸入流通加工サービスといった新たな事業も始めています」
配送時間を短縮し、コストを削減する「輸出手倉サービス」
「輸出手倉サービスは、これまで荷主の指定倉庫で航空貨物代理店が行っていた検量や検尺、ラベリングなどの輸出申告に必要となる付帯作業を空港、あるいは空港に隣接する保税上屋で、JALCARGOが行うというものです。それにより荷主が一度、指定倉庫に荷物を搬入し、輸出手続きを行ったうえで改めて空港上屋に搬入するプロセスが不要になります。その結果、リードタイムの短縮、配送コストの削減が期待できるのです。貨物の荷揚げや荷卸しの回数も減るため、荷物の損傷リスクも減らせます。
成田の場合は空港内で、羽田も空港から近い羽田DCで通関でき、通関が終わったらすぐに搬入できるので効率的です。私たちが航空機に搭載できる状態にまで梱包し、未通関のまま保管。通関許可がおりた適切なタイミングで搬出するサービスも行っています。
重量やサイズを測る検量や検尺は、結果が貨物の運送上にそのまま記載されるため、作業を誤ると大事故になる可能性もある航空貨物において、非常に重要な作業です。その際にはリチウムイオン電池や毒物、可燃物など危険物のチェックも不可欠です。危険物申告書情報を電子化し、自動でチェックする『DG AUTO CHECK(危険物申告書情報の電子変換システム)』を導入することで、人的ミスを減らし、業務効率化を図っています。
羽田DCは空港外施設ですが、ここで私たちが爆発物検査を行っています。現在はシートで荷物の表面をふきとり、専用の機械でチェックするETDSという方式で行っていますが、2026年からは荷物の中身の安全確認まで求められるようになるので、準備が整い次第、X線検査装置を使った検査に変更する予定です」
物流を効率化し、付加価値をつける「輸入流通加工サービス」
「輸入においては、輸入貨物の仕分け作業や通関許可が下りるまでの保管だけでなく、付加価値をつけた輸入流通加工サービスを提供しています。
成田空港では、最先端の自動ラックシステムによる安全で正確なオペレーションで仕分けや伝票貼付を行い、配送リードタイムの短縮や物流コストの削減を目指しています。羽田DCでは現在、この作業はスタッフが端末によるスキャンで行っていますが、今後は代理店と協力しながらRFIDタグの活用や一斉照射によるバーコードラベルの読み取りなどの新しい技術を取り込みながら、作業効率化を図っていきたいと考えています。
これまでこのような仕分けや伝票貼付の作業は、空港から離れた郊外の倉庫で行うことが多く、倉庫までの輸送に時間がかかることで、お客様に荷物が届くまで時間がかかってしまうというデメリットがありました。この作業を、羽田空港から近い場所で私たちが代行することで、時間やコストの削減につながっているのです。
羽田DCのそばには大手宅配業者の基地もあり、空港に着いた荷物を個人のお宅に届けるまでに必要なすべての作業を、空港に隣接した場所で行えます。その結果、越境ECの荷物をお客さまの元へスピーディーにお届けできるようになりました。かつては日本在住の方が越境ECサイトで商品を注文すると、家に届くまでに2〜3週間はかかったのですが、今では3〜4日で届くようになっています」
航空会社のリソースを活かし、さらに便利で安心な越境ECへ
ここまで解説してきたとおり、越境ECの拡大とともに高まる航空貨物輸送のニーズに応えるためには、今まで以上に輸出手倉サービスや輸入流通加工サービスが果たす役割が大きくなっていきます。最後に、今後の展望について片山に語ってもらいました。
「リードタイムの短縮は今後も重要なミッションの一つです。羽田空港に近接している羽田DCの立地的な利点を活かし、空港から荷物が搬入されてから配送業者に引き渡すまでの時間を短縮し、最終的な顧客への迅速な配送に貢献していきたいですね。そのために今まで以上に業務の効率化を図っていきます。
また、輸出入の業務はスピードだけでなく、安全性や正確性も非常に重要です。例えば、保税蔵置場にある未通関の荷物を誤って外に出してしまえば、密輸と同じことになってしまいます。そのようなミスは絶対に防がなくてはなりません。人間の手作業ではどうしてもミスが起きるので、ミスを防ぐために機械化や自動化も積極的にすすめていきたいと考えています。
JALの一員である私たちには、航空会社だからこそ使えるさまざまなリソースがあります。そのようなリソースを有効に活用しながら、代理店や運送会社のみなさまと協力し、さらに便利で安心な越境ECになるよう航空貨物サービスを提供していきます」
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