物流の2024年問題を解決へ。JALが進める航空輸送による空のネットワーク

2025年8月28日

トラックドライバーの労働時間に上限規制が設けられることで、物流業界だけでなく一般消費者にも大きな影響をもたらすと言われている「物流の2024年問題」。スピード輸送や長距離輸送の面で優位性の高い航空貨物輸送は、今後人材不足が加速し、物流機能が低下していくトラック輸送を補完する手段として、注目されているのです。この記事では、「物流の2024年問題」に関する基礎知識や、航空貨物輸送ニーズに対応するためのJALCARGOの取り組みまで、分かりやすく解説していきます。

物流の2024年問題とは?

「物流の2024年問題」とは、働き方改革関連法の施行によりトラックドライバーの労働時間に上限が課されることで物流業界に生じる問題の総称のことです。

日本は「少子高齢化による労働人口の減少」や「長時間労働の慢性化」「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金格差」「有給取得率の低迷」など、労働環境に関わるさまざまな課題を抱えています。こうした中、政府は誰もがそれぞれの事情に応じて多様な働き方が選択でき、ワークライフバランス(仕事と生活の両方を充実させる働き方や生き方)を実現させる、「働き方改革」を進めることにしました。

その一環として、労働に関連する法律を改正する「働き方改革関連法」が2019年4月から順次施行されたのですが、物流業界に関しては5年間の猶予期間が設けられました。その期間が2024年3月に終了することから、物流の2024年問題と言われ始めたのです。

物流の2024年問題の影響

2024年4月からは物流業界においても、時間外労働の上限(休日を除く年960時間)規制などが適用されたのですが、この規制によって今後は物流事業に関するさまざまな影響が懸念されています。例えば、輸送能力が低下し物流が停滞することや、運送の売上・利益の減少に伴うドライバーの収入減少などが見込まれており、人材確保が一層難しくなることも危惧されていました。

物流業界の中でも陸上貨物輸送に欠かせないトラックドライバーは、他業種と比較して特に労働時間が長い傾向にあるため、この規制によって「モノが運べなくなる」という物流機能の低下を招いてしまうのではという社会的な課題として注目を集めました。

物流の2024年問題の打開策として注目される航空貨物輸送

物流の2024年問題に関しては、物流業界も早い段階からDXの活用や共同配送(複数の荷主企業や物流企業が連携して、同じ配送先へ荷物を配送する輸送方式)などの取り組みによって解決する努力を続けてきました。これによって、施行から1年経った時点では、まだ「モノが運べなくなる」などといった大きな問題は表面化していません。とはいえ、人材不足の課題は今後も深刻化することから、物流業界全体で根本的な対応が求められています。

そこで注目されているのが、これまで物流の大部分を担ってきたトラック輸送から、航空機や船舶、鉄道などに輸送手段を移していく「モーダルシフト」と呼ばれる取り組みです。

こうした背景から、「スピード輸送」「長距離輸送」の面で優位性の高い航空貨物輸送は、今後人材不足が加速し、物流機能が低下していくトラック輸送を補完する手段として、注目されているのです。

JALとしての国内航空貨物輸送における現在の取り組み

物流の2024年問題については、JALも2019年頃から意識していました。とはいえ、航空貨物輸送が、日本全体の輸送量の約9割を担うトラック輸送の全ての受け皿になることは難しいでしょう。政府としても、長距離輸送に絞って航空貨物輸送に移行するモーダルシフトを積極的に推進させようとしています。

こうした動きをキャッチアップし、現在JALでは国内の航空貨物輸送において、さまざまな取り組みを進めています。その内容について、北海道エリアの貨物スペース販売を担当する川口と、羽田空港で取り扱う国内貨物の窓口を担当する手島に解説してもらいました。

通常のビジネス領域における取り組み:新千歳空港を経由した鮮魚の輸送事業

日本航空 貨物郵便本部 北海道販売部 川口真由

「現在、私たちは主に新千歳空港を経由して羽田空港に鮮魚を輸送する事業を進めています。生鮮水産物に関しては、トラック輸送の場合、しっかり温度管理ができた状態で運べるメリットがありますが、航空貨物輸送にすることでリードタイム(発注から納品されるまでの時間)が半日から1日ほど短縮されます。これにより、店舗等での販売期間を従来よりも延長させることができ、食品廃棄リスクを低減させることが可能になるのです。さらに、これまで以上に鮮度がいい状態で販売できるようになることで、買い手となるお客さまの満足度を向上させることができます。

そもそも、2024年以前からトラック輸送には人手不足や長時間労働、減便などの課題があり、荷主側でも航空貨物輸送を検討されることがありました。ですが、当時から航空貨物輸送はコストの面で割高になるイメージがあったので、なかなか受注がとれませんでした。トラック輸送も若干値上げはしているようですが、それでももともとの航空貨物輸送のレートに比べると安価だったんです。

そうした中、私たちも2024年問題が物流のターニングポイントになると感じていたので、2024年4月からイワシを中心とした鮮魚輸送のコストを、思い切ってトラック輸送に近いところまで抑えて提示させていただきました。それによって、従来の2倍の受注をいただけるようになったのです。それだけでなく、イワシに加えてサンマの輸送にも興味を持っていただくようになり、その後は季節ごとに魚種を変えて運ぶようになりました。航空便を使えば、北海道から直接、関東や関西まで一気に鮮魚を届けられるという点も私たちの大きな強みです。

輸送の際は鮮魚の品質を保つ対策も欠かせません。国内の航空貨物輸送の場合、旅客機の床下に貨物を積んで運ぶのですが、鮮魚の品質を保つために発泡スチロールの中に魚を詰め、季節に応じて氷やドライアイスを入れて低温にしているんです。また、水漏れを防ぐために防水パンと呼ばれるケースを使用することで、安全に運ばせていただいています。

鮮魚などが空港に到着すると、お客さまで仕分けをしてトラックに積み替え、そこから各地の市場やスーパーに届けられます。トラックによる鮮魚の輸送の場合、長距離輸送になるとと時間がかかるので冷凍して送ることが多いのですが、航空貨物輸送の場合は長距離でも短時間で届けられるので、基本的に冷凍はしません。やはり、魚は一度冷凍すると味が落ちることもあるので、そこも航空貨物輸送の大きな付加価値になると思っています」(川口)

新たな事業領域に関する取り組み:保安検査から積み付けまでのワンストップサービス

日本航空 羽田貨物支店 国内貨物部 マネジャー 手島淳

「物流の2024年問題に関連する新たな取り組みとして、羽田空港に貨物専用のX線検査装置を設置し、保安検査、およびパレットやコンテナへの積み付けまで請け負わせていただくことにしました。これにより、お客さま自身で保安検査や専用器材への積み付けなどを行っていただく手間を省き、私たちに荷物を預けるだけで目的地にお届けする、ワンストップのサービスを提供できるようになったのです。

こうしたサービスを提供する背景には、荷主や航空貨物代理店側にとって、検査装置の購入コストの負担以外にも、人材確保が難しいという課題があるからです。X線検査装置はSRA(制限区域及び制限区域に接する区域)内に設置[KM1] [AT2] [AT3] [KM4] するのですが、そこにはX線による透過画像を目視で診断するために、空港保安警備業務検定の1級保持者を配置させなくてはいけません。さらに、この資格は取れたら終わりではなく、日頃の訓練も必要です。空港業務は365日24時間稼働しているので、そうした人員を複数人確保しておかなくてはならず、そのための人材育成も欠かせません。

貨物専用のX線検査装置

また、航空貨物代理店は、夜までに集荷した貨物を翌日午前中までに目的地に届けたいと考えています。そのため、空港地区での荷役作業は特に深夜・早朝帯に人手が必要になります。そうした人材も365日必要なのですが、労働人口が減少している中では、時給単価を上げてもなかなか集まりません。保安検査から詰み付け、輸送までの一連の作業を私たちが請け負うことで、それらの課題を一気に解決できるのです。荷主側はJALに荷物を預けるだけで済むので、設備投資や人材育成の負担を軽減できるだけでなく、業務の効率化と時間の短縮にもつながります。

昨今のインフレで人件費や燃油費も上がり、トラック輸送のコストもじわじわと上がってきています。その中で、トラック輸送の方が航空貨物輸送よりも圧倒的に安いというイメージはだんだん払拭されていくでしょう。当社の国内航空貨物輸送は全て旅客便を使用しており、定時出発率を維持しつつ、旅客・貨物双方の収入を踏まえ、便・時間帯により競争力のある価格の提供が可能と考えています。

今、特に力を入れているのは、東京から北海道、九州、四国などへの輸送です。こうしたエリアの場合、夜集荷した荷物を昼に運んでもトラック輸送より早く着きます。航空貨物輸送にシフトすることで長距離トラックの長時間労働問題も解決できるなど、働き方改革にも貢献できると考えています」(手島)

持続可能な物流へ。JALが見据える次なる戦略

物流の2024年問題を根本的に解決するためには、トラック輸送を航空貨物輸送に置き換えるのではなく、複数の輸送手段を連携していく必要があります。航空貨物輸送における戦略について、日本国内における貨物販売のサポート、販売企画を担当する早田に語ってもらいました。

日本航空 貨物郵便本部 企画部路線室国内路線収入グループ グループ長 早田朗

政府も支援するモーダルミックスを推進

「JALの航空貨物輸送の強みの一つは、ネットワークです。私たちは基本的にグループ会社も含めて日本全国をカバーできているので、どこへでも旅客機を使って貨物をお届けできます。もう一つの強みは空港におけるハンドリング(支援)で、経験豊かなスタッフが長年に渡って蓄積されてきたノウハウや技術を元に、高品質なサービスを安定して提供します。

物流業界における人材確保は今後も難しくなるでしょう。それでも、全てのトラック輸送を航空貨物輸送には置き換えられないので、モーダルシフトから一歩進んだ考え方である、複数の輸送手段を連携させる「モーダルミックス」が必要になってくると考えています。国土交通省から2024年10月末に発表された『新たなモーダルシフトに向けた対応方策』では、航空貨物輸送について『既存定期便の空きスペース活用』や『空港への貨物検査機器の導入推進』が推奨されていますが、後者についてJALは、X線検査装置を導入したワンストップサービスを提供することで対応していきます」(早田)

トラック輸送とのコスト格差を埋めていく

「コロナ禍以降の国内航空貨物の需要は、コロナ禍前の75〜80%くらいまでしか戻っていません。その理由は、コロナ禍で旅客機が飛ばなくなったので、それらに積む予定だった貨物がトラック輸送に流れていき、そのまま定着したからです。

そこで、私たちは2024年問題をきっかけに、輸送力不足によってモノが運べなくなる地域の社会課題の解決に航空輸送がどのように貢献できるのかを考えています。今後はトラックドライバーの数が減りますし、働き方も変わっていく中で、航空貨物輸送との経済合理性の格差をどう埋めていくのかを、航空貨物代理店も含めたさまざまなパートナーさんたちと一緒に考えていきたいと思っています。

トラック輸送の場合、例えば往路で荷室の半分にも満たない貨物しか積まず、復路は何も積まずに戻ってくるとしたら、その運送コストは航空貨物輸送よりも高くなってしまうこともあるでしょう。今後、特に地方では積み合わせの集荷が難しいところに、航空貨物輸送の需要が見えてくるかもしれません」(早田)

BCPや地域経済の活性にも貢献

「鉄道や船舶による輸送は、天候や大きな災害の影響を受けます。例えば鉄道の場合、豪雨による土砂災害で線路が埋まってしまうと、復旧までに数週間かかることもあります。その点、航空便は意外と災害後の立ち上がりが早いと思います。したがって、BCP(事業継続計画)の観点から見ても、航空貨物輸送を使うのは理に適っています。

また、近年は猛暑の影響でクールチェーンという保冷輸送の相談をいただくことが多くなりました。航空貨物輸送ならば輸送時間が短いことが優位メリットですが、航空機への搭載前後の温度変化に対応するために、従来のドライアイスを使用した保冷コンテナに加えて、通常のコンテナ内に断熱材を設置し、蓄冷材を入れて冷やす高性能の簡易保冷コンテナの導入により、環境に配慮した輸送に対応しようとしています。

やはり、現地の食材を新鮮なまま届けたい場合は、圧倒的に航空貨物輸送が有利です。今後も販路拡大や付加価値の提供を積極的に行い、全国各地の特産品を新鮮な状態でお届けし、地域経済の活性化にも貢献していきたいと思っています。

一方で、国内貨物の輸送は旅客便を使っているので、機材計画や路線計画は旅客需要の動向によって変化していきます。今後は、幹線空港と呼ばれている那覇空港、福岡空港、伊丹空港、新千歳空港に関しては大型機材でしっかりと需要に対応し、それ以外の地方については中小型機材を活用してきめ細やかに対応していくことが必要と考えています」(早田)

航空貨物輸送における今後の展望

最後に航空貨物輸送の今後について、早田に展望を語ってもらいました。

「航空輸送にあってトラック輸送にないのが保安検査で、そこの設備投資が陸路から空路へシフトする際のハードルになっているのではと考えています。そのハードルを低くするために、羽田空港でサービス開始している保安検査から詰み付け、輸送までのワンストップサービスを将来的には他の空港でも提供できるようにしていきたいですね。

検査などは全て私たちで引き受けて、貨物を搬入していただくだけになると、あらゆる航空貨物代理店に航空輸送をご利用いただきやすくなると思います。トラック輸送から航空貨物輸送へのシフトに関してはまだまだ移行期間。JALの強みであるネットワークをさらに活かせる体制を整えて、航空貨物輸送で物流を支えていけるようにしていきたいです」(早田)

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