2025年8月28日
スマートフォンやノートパソコンをはじめとする電化製品や、EV(電気自動車)などに搭載されている「リチウム電池※」。私たちの暮らしやビジネスを支える一方で、発火・破裂を起こし、大きな事故につながるリスクを持った「危険物」でもあります。そのため、航空貨物として輸送する上でも、さまざまな安全対策が講じられています。そこでこの記事では、リチウム電池の基礎知識から、輸送時の危険性やルール、さらなる安全性向上に努めるJALCARGOの取り組みまで、分かりやすく解説していきます。
- ここでは、「リチウム金属電池」と「リチウムイオン電池」をまとめて、「リチウム電池」と呼びます。
需要が増え続ける「リチウム電池」とは
まず、リチウム電池にはどのような種類があり、どのようなメリットがあるのか、基本的なポイントを紹介していきます。
リチウム電池の種類
リチウム電池は、大きく分けて「リチウム金属電池」と「リチウムイオン電池」の2種類に分類することができます。それぞれの特徴と用途は、以下のとおりです。
リチウム金属電池
充電ができない使い捨ての電池(一次電池)です。ヘッドライトやペースメーカー、補聴器、腕時計、電卓などに使われており、コイン形のものは「ボタン電池」とも呼ばれています。
リチウムイオン電池
充電することで繰り返し使うことができる電池(二次電池)です。スマートフォンやノートパソコン、タブレット、携帯ゲーム機、モバイルバッテリー、デジタルカメラといった電化製品のほか、EV(電気自動車)のバッテリーにも使用されています。
リチウム電池のメリット
リチウム電池の主なメリットとしては、高い電圧と電力が得られる、寿命が長く軽い、放電末期まで電圧が下がらない、低温でも使用できることが挙げられてます。
特にリチウムイオン電池は、繰り返しの充電に強く、短時間で充電できることも大きな魅力です。世界全体が再生可能エネルギーに舵をとっている中、あらゆる電化製品がエネルギー効率の高いリチウムイオン電池を採用しており、その需要は右肩上がりで増え続けています。
リチウム電池の生産国
リチウム電池の主な製造国は、製造メーカーが集積している中国や韓国といった東アジアの国々で、日本国内でも大手メーカーが製造しています。
中には、中国から輸出され、日本を経由し、アメリカに輸入されるというルートもあり、いかに多くのリチウム電池を輸送できるかが、各国の貿易政策上でも今後ますます重要となってくることが予想されます。
リチウム電池はなぜ「危険物」なのか
リチウム電池はメリットも多い一方、発火・破裂を起こす「危険物」でもあります。ここからは、JALCARGOで危険物の取り扱いのプロフェッショナルである船井に、詳しく解説してもらいましょう。
リチウム電池の危険性
「リチウム電池の発火や破裂はさまざまな原因から起こりますが、特に多いのが、強い衝撃や損傷を受けることで正極と負極がショート(短絡)し、内部で熱暴走が起こってしまうことです。しかも、電池の中にはエネルギーが蓄えられているため、一度発火すると通常の消火器や水で消すことが難しく、取り返しのつかない事態となってしまうのです。
特に、充電ができないリチウム金属電池は、容量いっぱいまで電気エネルギーが詰まっているため、リチウムイオン電池と比べ、より危険性が高いとされています。また、負極に使用されている金属リチウムは水に対して激しく反応するため、濡らさないよう注意が必要です。」
航空貨物としてのリチウム電池
「JALCARGOは、『航空貨物』を取り扱っているJALの貨物部門です。危険物の輸送にあたっては、『IATA(国際航空運送協会)』が発行する危険物規則書に則り、安全かつ高品質な輸送を心がけています。
私たちの仕事は、空港上屋で荷主さまから貨物をお預かりするところから始まります。特にパレットやコンテナに積み付ける際は、包装されたリチウム電池に損傷が起こらないよう、厳重な取り扱いが必要となります。リチウム電池は損傷を受けた瞬間に熱暴走を起こしてしまうわけではなく、時間が経ってから発火する可能性もあるため、輸送前・輸送中はもちろん、輸送後もあらゆるリスクを想定しておく必要があります。
日本国内では発生していませんが、海外ではリチウム電池が原因の航空事故が発生しています。航空機に搭載する⼤量のリチウイオン電池が発⽕し、機体全損となる⽕災につながることがあります。」
飛行機でリチウム電池を「航空貨物」として輸送するには
このような危険性があることから、リチウム電池の航空輸送にあたっては、IATAの危険物規則書で厳格なルールが定められています。今回は、その中でも重要なポイントに絞って、船井が解説します。
旅客機と貨物専用機の違い
「まず航空貨物には、旅客機の下部貨物室で運ぶ方法と、貨物専用機で運ぶ方法、2つの輸送方法があります。このうち旅客機では《リチウム電池単体のみ収納している》包装物を輸送することは禁じられており、《電子機器と電池が同梱されている》もしくは《電子機器に電池が組み込まれている》包装物しか運ぶことはできません。
一方、貨物専用機では、リチウム電池単体のみ収納している包装物でも輸送することができます。JALでも2023年2月から自社貨物専用機を運航開始し、大型のリチウム電池をはじめ、幅広いお客さまの輸送需要にお応えすることができるようになりました。」
包装基準
「リチウム電池には包装基準が細かく定められており、1包装物あたりの電池の正味量や電池の充電率(リチウムイオン電池の場合)、機器や電池同士が同じ包装物の中で接触しないよう個別に保護することなどが定められています。
JALCARGOでは、基本的には包装された状態でお預かりする形となるため、荷主さまには基準に沿って包装していただく必要があります。その上で私たちが、包装物に適切なラベルが貼られているか、輸送品目や国連で定められた番号がマーキングされているか、危険物申告書は正しい内容になっているかといったチェックを行っています。」
危険性ラベルの一例(左:電池マーク/右:電池用第9分類ラベル)
積み重ね要件
「2025年1月には新たに『積み重ね要件』が加わりました。これはリチウム電池が入った包装物の上に、同一の物を高さ3mまで積み上げ、24時間後も電池の損傷がなく、容器としての有効性に影響がない状態になっていることを条件付けるものです。
このように、リチウム電池の輸送規則はIATAの会議でも常に議論の中心となっており、お客さまやスタッフの命を守るため、年々新しいルールが設けられているのです。」
リチウム電池を飛行機で安全に輸送するためのJALCARGOの取り組み
リチウム電池を安全に輸送するためには、ルールを遵守することはもちろん、航空貨物業界での取り組みも重要となります。ここからはマーケティンググループの山田と小林も加わり、近年JALCARGOが力を入れてきた2つの取り組みについて紹介していきます。
IATA CEIV Lithium Batteries認証
「CEIV Lithium Batteries認証とは、IATAが策定したリチウム電池の航空輸送の国際統一基準で、高い輸送品質の証明となります。JALは業界全体のリチウム電池輸送の安全性を高めリードしていくことを目指し、認証取得に向けたプロジェクトチームを立ち上げ、2025年2月に取得することができました。」(小林)
「この認証を得るためには、約300のチェック項目を満たしていく必要があります。例えば、緊急対応時のマニュアルや用具に足りていないものがないか、緊急時に適切な対策が取れる体制が作れているかなど、社内の規定や手順を見直しながら一つずつクリアしていきました。」(山田)
「今回のプロジェクトを通して、成田国際空港株式会社が主催するコミュニティに参画したことも非常に意義がありました。各社と連携し、サプライチェーン全体の安全性向上に努めていきたいです。」(小林)
危険物に関する社内コンテスト
「JALの安全‧品質管理グループでは、主に国内の貨物部門で働くスタッフを対象に、危険物に関する知識を試す社内コンテストを実施しています。危険物に関して、肩肘張らずに参加しつつ、正しい取り扱いを再確認できるクイズ形式をとっています。
大会は、オンラインで参加できる1回戦を経て、成績優秀者の上位8名で決勝大会を実施。トーナメント形式でチャンピオンを決めます。もともとはコロナ禍に何かできることがないかと始めた取り組みでしたが、2024年度で5回目の開催を迎えることができました。
さらに2024年度は、全国のスタッフ全員に、国内貨物における危険物の取り扱いに関するクイズを毎月出題しています。空港によっては、危険物の取扱いが少ない場合もあります。だからこそ、JAL全体の知識の底上げを目指していけたらと考えています。」(船井)
さらなる安全性向上を目指して
ここまでの解説のとおり、危険物であるリチウム電池の航空輸送は、厳格なルールを遵守した上で、さらなる安全性向上を目指していくべきトピックとなっています。最後に、船井・山田・小林の3人に今後の展望を語ってもらいました。
「安全というのは『これまで事故が起きてないから大丈夫』というものではなく、この先も起こることがないよう、とことん突き詰めていかなければならないものです。現状に満足することなく、より高みを目指すという意味でも、世界中のスタッフ全員で安全意識を一層高めていきます。」(山田)
「危険物輸送の基本は、規則に従って正しく取り扱うことに尽きます。まずは、日々の取り扱い業務やCEIV Lithium Batteries認証取得の過程で見えてきた課題に取り組みながら、同時に耐火性器材(コンテナ・バッグ)の導入など新たな対策も進めていきます。」(船井)
「リチウム電池の輸送規則は年々厳しくなっており、この先、安全対策が十分にとれていない事業者は立ち入ることができない領域となってくるはずです。eコマースがさらに発展し、リチウム電池の輸送ニーズも加速度的に増えていくことが予想される中、JALが世界をリードし安全性向上に取り組んでいきます。」(小林)
関連コラム
2025年8月28日
「物流の2024年問題」に関する基礎知識や、航空貨物輸送ニーズに対応するためのJALCARGOの取り組みまで、分かりやすく解説していきます。
2025年8月28日
フレイターとはどういうものかといった基礎情報から、JALが運航再開した理由や目的、再開後の国内外のお客さまの反応、今後の展望までを一挙にご紹介。JALCARGO関係者の想いを乗せたフレイター運航再開の裏側をお届けします。