米国へのiPS細胞由来製品輸送が20時間以上短縮でき、パーキンソン病治療実現へ一歩近づきました。
会社名:住友ファーマ株式会社/株式会社RACTHERA/S-RACMO株式会社
業種:医薬品
利用サービス:医薬品専用輸送サービス(J SOLUTIONS PHARMA)
ポイント
導入前の課題
生きたiPS細胞由来製品を米国まで24時間以内に輸送すること
- 2020年からプロジェクトをスタートしたが、荷物が現地に届くまで40〜60時間かかっていた
- 品質が良好に保たれた状態でiPS細胞由来製品を届けるため、24時間以内に輸送することが目標だった
医薬品輸送のノウハウを活かして慎重かつスピーディーに運んでもらえるため
- 現地に駐在するJALスタッフが貨物室から上屋搬入まで付きっきりで対応
- 温度や振動などに細心の注意を払い、品質管理を徹底した上で現地に届けてもらえる
導入後の成果・効果
J SOLUTIONS PHARMAを利用したことで、輸送時間が大幅に短縮できた
iPS細胞を活用した再生・細胞医薬品開発と、再生医療の最前線
住友ファーマ株式会社は、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を利用した再生・細胞医薬品開発において、パーキンソン病を対象とした世界初のiPS細胞由来製品の開発を進めています。パーキンソン病は、運動に関わる脳の神経細胞が減り、震えやこわばりなどの症状が出る難病です。国内では2018年に、京都大学がヒトのiPS細胞で作った神経細胞を脳に投与する治験を始めました。現在、住友ファーマ、株式会社RACTHERA(ラクセラ)、S-RACMO株式会社(住友化学株式会社と住友ファーマの合弁会社)の3社は、そのiPS細胞由来の神経細胞を製造・販売する役割を担い、国への承認申請の準備を進めています。
さらに米国でのヒトを対象とする臨床試験に向け、iPS細胞から作った神経細胞を日本から米国・カリフォルニア州のカリフォルニア大学サンディエゴ校へ空輸するプロジェクトも進行中です。このプロジェクトには、三菱倉庫株式会社、稲畑産業株式会社、JALの3社にご協力いただき、品質の安定した細胞を生きたまま輸送温度をコントロールして空輸する体制を整えています。
RACTHERAは、住友ファーマのiPS細胞を活用した再生・細胞医薬事業を分社化し、住友化学と住友ファーマの合弁会社として2025年2月1日に設立された会社です。RACTHERAの主な事業内容は、再生医療等製品、特定細胞加工物および再生・細胞医薬関連製品の研究、開発、製造、販売および輸出入等であり、製造受託を担うS-RACMOや住友ファーマ、住友化学と連携しながら、プロジェクト全体のコントロールを担っています。私は、RACTHERAの戦略企画部に所属し、再生・医療事業の方向性を決める事業企画のマネージャーを務めています。
JALCARGOの協力により、輸送時間が40〜60時間から20時間以内に大幅短縮
抗生物質、ワクチンといった医薬品の中には、フリーズドライ(凍結乾燥)技術で粉末もしくはケーキ状にし、水を加えることで復活するものもありますが、細胞に関してはそのような処理が難しく、生きたまま輸送する必要があります。その一方で、生きた細胞を輸送する技術はまだ十分に確立されていません。さらに、iPS細胞由来製品は輸送に時間がかかりすぎると品質が損なわれるため、品質保持の観点から「24時間以内」に現地に届ける目標を設定しました。
米国への細胞医薬品の輸送試験をスタートしたのは2020年。当初は、細胞輸送に特化した事業者に輸送を依頼していましたが、日本を出発して輸送が完了するまでに60〜70時間を要してしまうことが課題でした。
2021年からは、医薬品の物流に強い三菱倉庫や商社の稲畑産業にご協力を依頼し、40時間まで短縮することに成功。しかし、さまざまな条件によって60時間かかるなど、輸送時間が安定しない点がネックでした。われわれには輸送に関するノウハウがないため、どこで滞っているのか見当もつかず、プロジェクト断念も頭をよぎりましたね。
三菱倉庫のご紹介で、2022年からはJALにもプロジェクトにご協力いただくことになりました。「24時間以内」という目標を共有し、まずは最善の方法を試してみようということで、チャーター便を使用したところ、輸送時間は一気に19時間弱まで短縮されました。
この結果を受けて、チャーター便以外の方法で同水準の輸送ができないかと、旅客便で繰り返し試験輸送を行ったところ、平均21時間程度と、安定して24時間以内で輸送できることが分かりました。
この成果は、JALCARGOの医薬品専用輸送サービス「J SOLUTIONS PHARMA」の豊富なノウハウがあってこそです。関西空港だけでなく、ロサンゼルス空港にも駐在するJALスタッフのサポートを活用し、貨物室から上屋搬入まで付きっきりで対応していただいています。これにより、時間のロスを減らすだけでなく、品質管理も徹底できます。
「J SOLUTIONS PHARMA」を選んだ決め手は信頼できるスタッフと輸送の柔軟性
J SOLUTIONS PHARMAを利用する際は、他の海外航空会社のサービスとも比較を行いました。最終的にJ SOLUTIONS PHARMAを選択した理由としては、現地の体制整備や運航時間の正確性、通関の確実性、そして輸送の柔軟性など、「安心してお任せできる」要素が多かったためです。
海外に荷物を輸送する際は、言語の壁が想定以上に大きな障害となることが多いものです。その点、J SOLUTIONS PHARMAでは、現地の日本人JALスタッフにコミュニケーションをお任せできるため、荷物をスムーズに取り扱ってもらえると判断しました。さらに、輸送の途中で何かトラブルが発生した場合のリカバリーや、柔軟な輸送ルートの調整が可能である点も、J SOLUTIONS PHARMAを選ぶ決め手になりました。
また、日本人の駐在スタッフなら、貴重な荷物であることを理解した上で、丁寧に扱ってもらえるという信頼感も大きかったですね。iPS細胞由来製品の輸送で最も注意が必要なのは、温度管理と振動の影響です。iPS細胞由来製品は、通常の医薬品とは異なり、温度管理が非常に重要です。輸送容器には温度の変動を防ぐための工夫が施され、細胞がダメージを受けないように細心の注意が払われています。また、振動についても、細胞にどのような影響を与えるか完全には解明されていないため、なるべく振動を与えず、丁寧に取り扱うことが求められました。
輸送試験に向けたトレーニングも含めて、事前確認を繰り返し行った結果、確実な輸送が実現。プロジェクトメンバー一同、J SOLUTIONS PHARMAのサービスには非常に満足しています。2022年に初めてチャーター機で輸送試験を行い、約40時間もの大幅な時間短縮を達成した際、社内のあちこちから驚きと喜びの声が上がったことは、今でも忘れられません。
iPS細胞由来製品の輸送は医療業界における挑戦であり、その成功は革新的な意味を持ちます。現時点では臨床試験に取り組んでいる段階ですが、臨床試験が成功に至った暁には、本プロジェクトを通じて構築された細胞医薬品の輸送システムは、新たなビジネスモデルとして普及する可能性があるのではないかと思います。今後もJALの協力を得ながら、さらなる医療の進歩に向けて共に前進していきたいですね。