ミリ単位で調整する慎重で安全なサービスに車両輸送を任せられ、過酷なレースに万全の体制で臨めました。
会社名:スバルテクニカインターナショナル株式会社
業種:モータースポーツ参戦、技術支援など
利用サービス:自動車専用輸送サービス(J SOLUTIONS WHEEL)
ポイント
導入前の課題
レース車両の開発期間をより長く確保するため、輸送を短期間で安全に行うこと
レース開催地まで通常2〜3カ月かかる輸送を12時間に短縮できるから
- 木箱梱包が必要なく旅客機に積み込める
- 専門のスタッフがミリ単位の精度で慎重に積み込みを行う安心感
導入後の成果・効果
J SOLUTIONS WHEELを利用したことで、輸送期間を短縮でき、レース車両の開発期間を長く確保できた
ニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦
スバルテクニカインターナショナル株式会社(STI)は、SUBARU車の性能を証明するためのパフォーマンス部門として設立されたモータースポーツ統括会社です。近年は、特別仕様車やアフターパーツ、エンジニアリング事業も展開しており、ニュルブルクリンク24時間レース(以下、ニュルブルクリンク)やスーパーGTシリーズの参戦で培われた技術的知見を各事業に盛り込むなど、SUBARU車の魅力の向上に注力しています。
私は、ニュルブルクリンクのSTIチーム監督を務めており、レースの運営や作戦の立案、チームの各部門との連携などが主な業務です。STIが2008年から参戦しているニュルブルクリンクは、24時間で走行する距離を競う耐久レースであり、"世界一過酷なレース"とも言われています。事故も多く発生し、ゴールできるのは全体の約7割。STIでは、日本人2人、外国人2人、計4人のドライバーがローテーションを組んで、24時間のレースを走り抜きます。また、ベストの状態で参戦できるようマシンを管理するエンジニアやメカニックも、レースには欠かせない存在です。コースの特性や車両への負荷が高いため、技術チームは常にその難しさに対処しながらレースに臨んでいます。
メカニックの選抜は特に厳しく、毎年、全国のスバルディーラーから選ばれた8名がチームに帯同し、メカニックが所属する販売会社の名前が車体に記されます。一度チームに帯同したメカニックは、選考会に参加する資格がなくなるため、「彼らにとって生涯に一度の舞台で早々にリタイアするわけにいかない」と、いい意味でプレッシャーがかかりますね。
「期間」と「コスト」。ニュルブルクリンク参戦に向けたレース車両輸送の課題
レース車両の輸送方法には、船便と航空便の2つがあります。船便はコストが安いものの、アフリカ大陸南端の喜望峰を回るルートを通るため、輸送に約2〜3カ月かかります。税関手続きや、レース用の車検証の査察などでさらに時間がかかることも考えられるため、2025年は、5月の前哨戦に向けて、1月には集荷を完了させ、2月に出港しました。レースが終わった後も、同じ日数をかけて日本へ戻ってくるため、来期の車両の開発期間が限られてしまう点がネックとなっています。
一方、航空便は12時間で目的地に届くものの、船便と比べると非常に高額であり、コスト面で選択しにくい状況にあります。また、レース車両の輸送は木箱梱包が一般的であり、どうしてもサイズが大きくなるため、貨物専用機でしか輸送できない点もかつては課題でした。
STIが、旅客機を用いた自動車専用輸送サービスであるJALCARGOの「J SOLUTIONS WHEEL」を初めて利用したのは2018年です。SUBARUがボーイング787型機の中央翼を製造していることに関連して、SUBARUの広報部から紹介を受けたことが、サービス検討のきっかけでした。最終的に、木箱梱包が必要なく旅客機に積み込めること、海外の航空会社の貨物便と比較して安価に輸送できることの2点が利用の決め手になりました。
レース車両は一般車より車幅を拡大しているため、寸法データはお渡ししていても、実際に積み込みできるかどうか心配でした。JALのご担当者も同じ点を心配されていたようで、富士スピードウェイにJ SOLUTIONS WHEELの専用器材をお持ちいただき、事前確認していただけたのはありがたかったですね。
ミリ単位の精度で行われた「J SOLUTIONS WHEEL」によるレース車両輸送
2度目にJ SOLUTIONS WHEELを利用したのは2023年です。レース車両「SUBARU WRX NBR CHALLENGE2023」は、エンジンをそれまで搭載していた「EJ20」から「FA24」に変更し、同時にボディも全て刷新。輸送期間を短縮して開発期間を長く確保するために、航空機での輸送を決めました。
J SOLUTIONS WHEELプラットフォーム(車体を乗せる台)を使用して車高の低いレース車両を搭載する際は、車高を調整したり、リアウイングを外したりして積み込みを行います。「SUBARU WRX NBR CHALLENGE2023」の車幅は、プラットフォームの大きさに対してギリギリのサイズであったため、作業は6名のスタッフで連携し、ミリ単位の精度で慎重に行っていただきました。
レース車両は繊細であり、わずかな傷やパーツのズレが、パフォーマンスに大きく影響します。しかし、2018年にJ SOLUTIONS WHEELを利用した経験から、輸送に対して不安は感じませんでした。JALのあるスタッフの方から「2018年も積み込みを担当しました」と教えていただき、ノウハウのある方にお任せできることに安心感すら覚えましたね。
SUBARUはこれまで、レース車両の輸送以外にも、JALとさまざまなコラボレーションを行ってきました。例えば、2017年にはファンイベントとして「SUBARUテックツアー ボーイング787『中央翼』体感フライト」を開催。また、2020年には、新型スバル・レヴォーグの発表会を、成田国際空港にあるJALの格納庫で開催しました。STIチーム監督としては、2019年にニュルブルクリンクで優勝した際に、帰路のJAL便で機内アナウンスに取り上げていただいたことが忘れられません。
ニュルブルクリンクのSTIチーム内では、J SOLUTIONS WHEELの使い勝手の良さや安心感を評価する声が高く、エンジニアからも「車両の改良・改善に時間をかけるために、今後もぜひ使いたい」という声が上がっています。J SOLUTIONS WHEELを利用することで、開発だけでなく、テスト走行も国内で何度も行うことができ、24時間走行できるという確実性を得てレースに臨めるんです。コスト面が課題ではあるのですが、そんな安心感が得られるという点でも、今後もぜひ利用したいですね。