コックピット日記

「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。

Captain91 移行訓練文=塚本裕司(日本航空機長)

 ある日の羽田空港。飛行機が離着陸を繰り返す様子を眺めながら、私が向かった先は滑走路の隣に建つ大きなビル。パイロットの制服を着て、操縦桿を握っているものの、その飛行機にはお客さま用の座席もなければ、翼もエンジンも付いていない─。
 ちょっと奇妙な話に聞こえるかもしれませんが、現在、私は"機種"を変更するための「移行訓練」を行っています。お客さまのいない飛行機というのは、シミュレーター(模擬飛行装置)のことで、これまでのボーイング747-400型機から、新たに担当するボーイング777型機の操縦資格を取るための訓練を、連日、繰り返しています。
 JALグループでは、現在、数種類の飛行機を運航していますが、パイロットが操縦できるのは一機種に限られていて、「型式限定」と呼ばれる資格を取得する必要があります。飛行機は、機種によって機体の仕様、操縦方法などが大きく異なるため、新たな機種へ移行する場合は、マニュアルを読みこなし、それを十二分に理解し、シミュレーターを使った訓練で実際の操縦感覚を身につけるなど、座学から操縦まで、学び直さなければなりません。
 シミュレーターでは、離陸や着陸など、新たな機体の感覚に慣れることに加え、運航中に起こるさまざまなトラブルや緊急事態に対処していく訓練が行われます。画面を見ながらの操作ではあるものの、操縦桿の反応、機体の傾きや動きなど、訓練中の感覚は実際の飛行機を操縦している時とほぼ同じです。
 これらのシミュレーターを使った訓練を行った後、チェッカーによる審査を受けて合格したら、実際に運航されている飛行機のコックピットにオブザーブ(同乗体験)、副操縦士席での乗務、機長席での乗務と続きます。そして、最終的に、再びチェッカーによる審査に合格して、ようやく機種移行が完了するという流れになります。
 移行訓練が始まってから、すべての過程を経て、完了するまでにかかる期間は、およそ半年。移行先の機種によって訓練期間の差はありますが、新たな操縦技術を習得し、それを身体に染みこませ、日常の乗務で発揮できるように、十分な時間をかけているのです。
 私自身、二度目の機種移行であり、現在、多くの仲間が、今後の機材更新や変更に合わせて、同様の移行訓練に入っています。お客さまの要望にもっと応えていけるよう、将来へ向けて、私たちパイロットも準備を進めています。

日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)