JAPAN AIRLINES

コックピット日記
Captain 30
文=工藤英樹(日本航空機長)
Text by Hideki Kudo
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
忘れ物を防ぐには
 皆さんは、忘れ物を防止するためにどのような工夫をされていますか? 例えば出かける際に、財布、鍵、携帯電話を持ったか、あるいは、窓をちゃんと閉めたか、鍵をかけたかなど……。
 私事ですが、先日、自宅に携帯電話をうっかり忘れてしまいました。最近は携帯電話があるから、待ち合わせ場所を明確にせずに、近くまで来たら連絡する、といったことはありませんか。その時は、きちんと場所を決めていたので問題はありませんでしたが、もし何らかの理由で大幅に遅れたり、急に待ち合わせ場所を変えたいと思っても、相手と連絡の取りようがないなどといったことを考えると、携帯電話の便利さを改めて実感させられました。それ以来、出かける前には必ず、財布、鍵、携帯電話の3点セットを玄関で確認しています。
 それでは、我々の空の仕事ではどうでしょうか。現在の旅客機はどんどんハイテク化が進み、操作性が高まっています。しかし、操作するのは機械ではなく、あくまで人間です。パイロットは旅客機のすべての機能と操作方法を熟知するとともに、それらを確実に使いこなすため、常に厳しい訓練を受けています。そして、通常の操作は記憶に叩き込まれており、その記憶によって行っています。
 しかし、人間の記憶が必ずしも万能とは限りません。どんなに訓練を積み重ねて完璧であったとしても、コックピットに座るごとに、基本から何度でも確認作業を繰り返すことで、私たちはより確実な運航を心掛けているのです。
 そうした際、私たちパイロットが用いているのは、実はハイテクとは正反対、昔ながらの紙に書かれた「チェックリスト」です。旅客機の出発前には、このチェックリストを手に持ち、機長と副操縦士とで声に出して読み上げながら、確認し合っています。
 具体的には、エンジン始動前、始動後、離陸前、離陸後、進入前、着陸前、駐機場に着いた時など、それぞれの際に必要なギアやフラップの位置、スイッチのポジションなど、チェックリストを使って目と耳で相互確認しています。飛行中の確認作業では、目の前にある操縦桿にチェックリストを貼り付けています。
 どんなに世の中が便利になっても、人間による確認作業は不可欠です。皆さん、そう言われてみれば何か忘れていませんか。
images
日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載