コックピット日記

「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。

Captain 143 右席と左席 文=筒井 淳夫(ボーイング 737 機長)

写真 読者の皆さま、こんにちは。
今回は、機長と副操縦士の役割について、お話ししたいと思います。

 ご存じの通り、コックピットの前方には2つの操縦席が並んでいます。皆さまはどちらの席に機長、または副操縦士が座るかをお分かりでしょうか。左右の席ともに同じ計器類が配されているにもかかわらず、基本的に左の席に座るのは機長となっています。この理由には諸説あるものの、その昔船舶の着岸が左舷で行われていたために、船長席が左寄りにあったことに由来すると言われています。

 では、航空機を操縦するのは左席に座る機長かというと、必ずしもそうとは限りません。実は、機長の職務はPIC(Pilot inCommand)といい、操縦そのものを指すのではなく、航空機の運航に関するすべての指揮と責任を担うことを意味します。一方、副操縦士の職務はCo Pilotと呼ばれ、PICの補佐や代行を担います。

 私たちが行う運航業務には、大きく2つの区分があります。1つは、地上走行や正確に航行するための操縦を行うPF(PilotFly ing)、そして、チェックリストの確認や管制・地上との交信といった補佐を担うPM(Pilot Monitoring)です。一般的には、機長がPFを、副操縦士がPMを担当しますが、副操縦士は訓練経験を通して機長と同等の操縦技術を習得しているため、フライトに応じて業務を交替しています。その場合は、2人の操縦士の役割を明確にするため、「You have control.」「I have control.」と発声するなどの工夫をします。名前に副とつくことから、補佐の印象が強い副操縦士ですが、操縦操作に関わる同等のスキル・知識≠持った操縦士2人でチームとなり、運航に携わっています。

「安全運航を確実にするために、あえてお互いを信用しない。けれど、信頼する」。これは、機長としての私のモットーです。あらゆる場面で判断が求められますが、最終決断を下すにあたり大切なのは、どれが正しい意見か、ではなく、何がベストの選択かということです。機長と副操縦士は、1つのチームとして空を飛んでいるのです。

日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)