JAPAN AIRLINES

コックピット日記
Captain 7
文=北村信一(日本航空機長)
Text by Shinichi Kitamura
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
太陽が西から昇る!?
 「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」といわれますが、秋分を過ぎて日がずいぶんと短くなったように感じられます。
 さて、皆さんは「朝日長者」という昔話をご存知でしょうか。この中に出てくる一節に、稲の収穫時期を迎えた長者が、あまりにも所有する田んぼが広いために、日暮れになっても作業が終わらず、黄金(こがね)の扇を取り出し、夕日を呼び戻して稲刈りを終わらせたというのがあります。
 太陽を呼び戻す(西から太陽を昇らせる)というのは、作り話の世界で、現実には不可能だと思われる方がほとんどでしょう。しかし、黄金の扇はなくても、実は旅客機なら太陽を西から昇らせることができるのです。
 太陽は地球の自転によって、東から西へと動くように見えます。もし、地球の自転より速く移動できれば、私たちは太陽に追いつくことが可能で、一度沈んだ夕日を再び昇らせることもできます。
 とはいえ、皆さまが搭乗される旅客機の巡航速度は、時速900キロ前後です。地球の自転速度(=見た目の太陽の移動速度)は、赤道付近で時速約1700キロにもなるので、スピードでは追いつけません。でも、ちょっとした工夫があれば、西から太陽を昇らせることは可能です。そのヒントは「高度」と「緯度」です。
 まず、地球は球体のため、高い所に登るほど遠くを見渡すことができます。離陸後、一気に高度を上げていく旅客機では、短時間で遠くまで見えるようになるので、地上ではいったん沈んだ太陽が、再び姿を現すことがあります。
 次に、地球儀を想像してみてください。地図上には北極と南極を結び、経度を示した線が何本も描かれています。この線をよく見ると、赤道付近では線と線との間が広いものの、極に近づくほどその間隔が狭くなるのが分かります。
 つまり、太陽が西へ向かって動く見た目の移動距離は、緯度が高くなるほど短くなり、それに応じてスピードも遅くなります。春分や秋分のころ、アラスカやシベリア上空にあたる北緯57度付近では、太陽の見た目のスピードが約900キロとなり、これより高い緯度を飛行すれば、太陽よりも速く移動することが可能です。
 以上のような条件が揃えば、太陽が西から東へと移動したり、いったん沈んだ夕日が再び西から昇るという現象も起こりえるのです。皆さんも機会がありましたら、珍しい夕日をぜひご覧ください。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載