コックピット日記

「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。

Captain 163 美しい日本の風景文=筒井 淳夫(ボーイング 737 機長)


 読者の皆さま、こんにちは。日本航空がボーイング737-800の運航を開始してから、今年で丸10年となります。国内線の主力機であるボーイング737-800は、全国30都市以上に就航しており、美しい日本の風景を機上から楽しむことができます。今回は、私のお気に入りの飛行ルートをご紹介いたします。

 まず、上空では航空路と呼ばれる目に見えない"航空機の道"が決められています。最近では、主にRNAV(アールナブ)=area navigation」と呼ばれる航法システムを使って、航空路が設定されています。これは、慣性航法装置やGPSなどの各種センサーを利用した装置を航空機に装備することで、自機の位置をより正確に把握し、地上の無線施設を使用せずに飛行ルートを設定できる方法です。そして航空路には、地上の道路と同じようにそれぞれに名前が付けられています。RNAVの経路は、L、M、Y、Zなどのアルファベット1文字と1から999までの数字を組み合わせています。写真

 なかでも、「Y(ヤンキー)28」と呼ばれる航空路を通る羽田―熊本線は、さまざまな景色に出合うことができます。羽田空港を離陸して3分後、横浜ベイブリッジの上空を通過し、15分後、左下に富士山の火口が確認できます。20分後には右手にアルプスの山々が見え、この時期は、紅葉を楽しむことができます。その後、名古屋、京都、大阪の街を眼下に望みながら1時間5分後、左手に本州と四国を結ぶ瀬戸大橋やしまなみ海道が見えてきます。瀬戸内の島々からは、美しい自然の姿を感じることができます。そして、左手に阿蘇山、右手に九重連山を眺めながら進入を開始し、熊本空港の滑走路を目指します。


 しかし、このような美しい風景は、パイロットにとって、注意しなければならないポイントでもあります。例えば、「山岳波」と呼ばれる乱気流です。山に当たった風が山の風下で大きく波打つもので、特に富士山のような大きな独立峰では発生しやすくなっています。そのため、山と機体との距離や高度をしっかりと把握し、最大限の注意を払って飛行しています。安全を第一に運航しておりますので、ご搭乗の際には、安心して外の景色をお楽しみください。

 さて、このたび、私の乗務は737からエンブラエルに移行となり、今回が最後のコラムとなりました。これまでとは違う上空の景色に胸を膨らませながら、今後も皆さまに安全で快適な空の旅をご提供いたします。これまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)