コックピット日記

「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。

Captain 162 夏のブレーキ温度文=今森 進介 (ボーイング 787 機長)


 読者の皆さま、こんにちは。暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
 私たちパイロットにとって、気温が高くなる夏場の運航は、さまざまな注意が必要です。なかでも今回は、着陸の際に使用するブレーキについてお話しします。

 航空機のタイヤにはディスクブレーキがあり、タイヤと一緒に回転する円盤と、固定されている円盤が交互に並んでいます。操縦席でブレーキペダルを踏むと、シリンダーがギュッと円盤全体を押し付け、円盤の回転速度が抑えられブレーキがかかります。着陸の際は、主にこのブレーキを使用しながら、エンジンに装着されているリバース・スラスト・システム(逆噴射装置)と、主翼に付いているスポイラー(制動板)を調整して、航空機を一気に減速させています。787の場合、着陸時の機体の重さは約200t、時速は250qもあるため、ブレーキには大きな負荷がかかり、ブレーキの温度は約400℃にも達すると言われています。高温の状態では、ブレーキの性能が落ちるだけではなく、タイヤが過熱し破裂してしまう恐れもあるため、出発前には、ある一定の温度まで下げなくてはなりません。

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 パイロットは、整備士と連携をとりながら、着陸後から次の出発までの間に、ブレーキの温度を確認しています。コックピットの計器に示される温度の表示方法や、出発に制限がかかる温度基準などは機種によって異なっています。787では、0・9.9のレベルで温度が表示され、3以上になった場合には、出発をすることができません。冬場であれば気温が低いため、駐機している間に自然とブレーキの温度が下がりますが、夏場は気温が高いためブレーキの温度が下がりにくくなってしまいます。その際には、「ブレーキ・クーリング・ファン」と呼ばれる送風機をタイヤの中心部に装着し、強制的に冷却するのです。

 夏場、空港に行かれる際には、駐機している航空機のタイヤに注目してみてください。白や黄色のフタのような形をした機械が、タイヤを挟み込んでいるのを見ることができるかもしれません。 夏休みやお盆休みなど、皆さまにご利用いただける機会が増えるこの季節。パイロットをはじめ、整備士、地上スタッフが一丸となって、夏の運航に備えておりますので、安心してご搭乗ください。

日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)