



JAL(以下、J):「日本旅」を提唱するきっかけを、教えていただけますか?
星野佳路氏(以下、星):私は軽井沢で生まれ育って、もともと実家が観光地だったのですが、軽井沢にいた時から運営会社を目指していましたので、リゾートや旅館の再生案件を含め、いろいろなところを運営するわけです。そうすると、イメージではもうちょっと画一的なというか…旅館の経営というものはどこも一緒じゃないかと思っていたのですが、実際にやってみると地域によって魅力が違うことに気付いたんです。私は大学卒業して大学院に行って日本に帰ってきて、実際に仕事でそういう場所に行ってみるまで知らなかったんですよね。日本の各地域っていうのはこんなに違うんだということと、違うだけじゃなくてそれぞれすごく大きな魅力があって。日本はこんなに小さな島なのに、これだけ魅力が点在していているっていうのがきっかけです。「日本旅」というのは、日本をもっと旅してほしいという…日本人には日本を再発見する場だし、外国の人達には「東京と京都だけが日本じゃないんだ」と。東京と京都以外にも本当に魅力的な日本はあちこちにたくさんあります、と伝えていきたいというのが一番大きな動機です。
J:星野さんといえば、観光の革命児といった、革新的なイメージがあると思われているんですが、実際にこのプロジェクトでいろいろな旅館や施設を周って見ると、根底にはより「日本」を意識したものを感じるのですが、そこはいかがでしょうか?
星:じつは話せば長い物語がありまして、私は米国コーネル大学のホテル経営学部で学んでいた時、ここでは普段はTシャツとジーンズで勉強し合っていますが、フォーマルな席が年に何回かあるんです。世界からお客さまを招待する機会があるんです。フォーマルなのでフォーマルな格好をしていくと、私だけがスーツで、他はみんな民族衣装着ているわけですよ。中東から来ている人は中東の格好してくるし、インドの人はサリーとか着てるし、身なりがね、自分の文化や地域性を大事にしているんですよね。私はすごく恥ずかしかったんです。一緒に勉強している友人たちなんて「お前はなんでイギリス人の真似してるんだ」とか色々なことを言われたんですよ。日本っていうのはやっぱり、長い歴史と独特の文化と、サムライだとか茶の湯だとかすごく日本的な風情を期待されていて、私がスーツを着ていたこと自体が彼らにはすごく意外なんですよね。そういう悔しい思いをしながら、「何で私は日本に生活していて着物を着たこともないんだろう」とか、そういうことを思いながら二年間を過ごしました。日本に帰ってきてリゾートや旅館を経営し始めて、常に「あのときの友人たちはどのように言うだろうか」というのが意識の中にあるんですね。つまりね、同級生の星野が日本でホテル経営しているから行ってみようよ、といって同級生が来るじゃないですか。その時に「お前なんでアメリカのホテル真似してるんだ」と言われないだろうかというね、あの時と同じ恥ずかしさというか、あの時と同じように、日本に対して日本らしい文化とか、日本らしいすごい長い歴史に基づいたおもてなしがあるのに、なんでアメリカや西洋風のホテルを経営しているのかと思われるのが嫌だったんです。

それまで父がやっている温泉旅館はカッコ悪いと思ってましたから。ハワイとかNYのホテルがかっこいいと思っていましたが、そこが大きく変わったところです。こういうことを真似事として日本でやっていては、世界の人に認められない。真似事やっていては、認められないだけじゃなくて、そもそも勝てない。だから私達は、どんなにかっこ悪くても、どんなに嫌でも、自分達の歴史とか地域の文化、地域らしさをかっこよくしていくということをしていかないと、いつまでもバカにされるし、いつまでも勝てない。そういう想いが強いですね。
ですから日本のホテル業界や観光業界って京都と東京が中心なんですけど、京都と東京の真似事をしていてはいけないんですね。沖縄ひとつにしても、ビーチリゾートでいいんだけど、ビーチリゾートの姿はハワイやグアムと一緒ではいけない。もっと沖縄らしさとか、琉球らしさとか、星野リゾートの場合だと竹富島らしさ、小浜島らしさ、西表島らしさを出していかないと勝てない、といつも感じてしまうんです。やっぱり顧客が期待する非日常感って得られませんし、顧客が期待する本物にならないと思っています。観光ってね、本物を求める旅なんですよね。その場所にわざわざお金を払って訪れた時に、その地域らしい本物があるかどうかなんですけど、そこに真似事があると、顧客の期待には反してしまうというのがあると思いますね。
J:沖縄、しかも竹富島に旅行に行くってすごく「遠いな」と思う反面、この遠さが本物なのでしょうか?
星:その「遠いな」という過程は旅においてすごく大事で、旅って結局非日常性を求めるプロセスだから、パッとドアを開けたらその世界があるのでは旅にならないですよね。魅力が高ければ高いほど、その距離は大事になってくるんですね。距離は、行ってる間にだんだんとその非日常の世界に入っていく、というのがすごく重要だと思います。
J:「飛行機で移動する」という過程を作るというのは大事なキーワードになりますね。
星:大事なキーワードですね。飛行機で飛ぶというのは、非日常の世界に入っていく重要なプロセスになるんですよね。だからこそ人間はわざわざ遠くに行きたいと思うし、行った先にあるものへの期待感が高まるわけですよね。遠いのにも限度がある、とよく言われますが、それは確かに限度はありますが、東京から沖縄とかね、アジアから沖縄というのは全く問題ない距離だと思います。

J:約半日ですね、ここまで来るのに。
星:今日私は6時頃に出ましたけど、昼過ぎには着いてるわけですからね。
J:竹富島は実際に訪れてみるととても素敵なリゾート地ですね。これからが楽しみですね。
星:ここのラウンジにいるとね、集落が良く見えませんが、集落の中に入っていただくと集落感が出てきて。プールの周りというのは逆に集落感をちょっと消して、別の場所に見せているんですね。ですので、滞在していただくと、もう少し面白いものが出てくると思ってるんですけど。
J:そうですね。「星のや」ブランドがこの竹富島にできたきっかけは何だったんですか?
星:きっかけはやっぱり、竹富という島から…人口問題とか経済とか雇用とかで、観光がここまで役割を果たせる島はないなと思ったのが、やる気になったきっかけでした。まあそれ以上に、一番大きかったのは竹富島の魅力です。沖縄の島で、ちょっと課題があるなと思うのは、沖縄らしさがどんどんなくなってっているんですね。竹富島だけは、伝統的建造物の保存地区になっていて、それもすごく厳しい内容で設定されているので、私たち旅行者にとっては一番琉球らしさを感じましたし、沖縄らしさを感じたし、昔の沖縄ってこういう文化でこういう生活していたんだと感じられた、すごく大事な場所だったんです。ここで事業ができるというのは、観光にとってすごくプラスですし、同時に私達がここで事業することによって島の経済にプラスになるならぜひやってみたいと、そこがきっかけでした。
J:今回、JAL×星野リゾート第4弾では、この竹富島を含め八重山地区のあと2つの施設にもスポットを当てるのですが、八重山地区の魅力はどういったところでしょうか?

星:やはり本島とは違った素朴さがあると思っています。那覇を含めた沖縄本島は、リゾートとして確立された存在ですし、同時に那覇は大きな都市ですよね、ですから都市観光を含めた魅力がある場所。同じ沖縄でも八重山の方が、昔の風情を感じる素朴さが残っているところが、いい所だと思うんですよね。そこをどんどんアピールしていく必要がある。特に西表は沖縄の中でも特殊な自然があります。ヤマネコも大事ですし、マングローブの森もあるし、本当にジャングルなんですよね。日本にあんなジャングルの島があったのかと思わせるぐらい、日本の自然の多様さの究極な姿なんですね。知床の流氷と西表のマングローブが同じ国にある、これだけ観光資源が多様な国ってあんまりないですよね。そこをしっかりアピールしていくのが大事だと思いますね。
小浜島は、私達が運営させていただいているリゾナーレ小浜島なんですけど、リゾナーレという名前を付けた理由は、ファミリーにとって大事な滞在の仕方が揃っている島なんですね。ゴルフ場もあればビーチハウスもあったり、リゾートとしてある程度完成された施設が揃っている、リゾート内で滞在できるのが大きなポイントなんですけど、でもそれだけだと、西洋のリゾートと同じになってしまうなというのがあるので、そこに琉球ならではの食をプラスしていきたいと思っていますし、自然を体感していただけるような滞在の提案も。寝袋で星空を見ながら寝ようとかですね、そんなプロジェクトを今一生懸命開発していますけれど、そういう海、波、星なんていう沖縄ならではの美しさをしっかり体感できるようなプログラムが大事だと思っています。西表は、どちらかというとジャングルをワイルドに体験のようなエコツアー的な要素と、ひとつは滞在型のファミリーリゾートと、区分けをしながら、お客さまには両方楽しんでいただければと思っています。
J:では最後に、星野リゾートさんの今後の展開についてお聞かせください。

星:私たちは日本の各地域とか各地方の隠れた魅力というんですかね、あんまり知られていないんだけど、行ってみると「すごいな」とか「こんなきれいな日本があったんだ」とか「これって意外と知られていないけど素晴らしいところだね」という場所をじつは紹介していきたいんですよね。もちろん世界の人は東京に来ているし、東京の人は京都に大量に行っていますけど、そうじゃない場所の拠点を増やして行きたい。拠点を増やすことによって、日本の人には日本を再発見する場を、世界の人たちには東京と京都以外の日本の素晴らしさを伝えていきたいと、そこが私達の想いなんですね。そういう場所に運営の拠点を増やしていけるチャンスを獲得していきたいと思っています。
J:ありがとうございました。
インタビューを終えて
「日本旅プロジェクト」をスタートして1年。当初より星野さんに「日本旅」を語っていただきたいという思いがあり、この「竹富島」でそれが実現しました。青い空、美しい海のどかな島の雰囲気。たしかにそこには星野さんのおっしゃるとおりの「本物の琉球の姿」がありました。
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