
神戸空港から車で30分。至便な立地ながら、目の前にはタイムスリップしたかのような、趣ある木造の旅館が佇んでいる。
こちら「陶泉 御所坊」の歴史は、1191年にまで遡る。室町時代の浄土真宗の僧侶・蓮如上人が湯治に宿泊するなど、数多くの歴史に名を残す人物に親しまれてきた温泉宿だ。
現在の建物は、昭和初期の木造建築を活かしながら、内装などの一部をリニューアルしたもの。新旧・東西の文化が混じり合う時代を反映した内装は、神戸在住の美術家、綿貫宏介によるものだ。
だからだろうか。一歩旅館に足を踏み入れた瞬間から、文化の交差点のような不思議な感覚に酔いしれる。
かつては谷崎潤一郎や吉川英治、伊藤博文などの墨客文人にも愛され、谷崎は、著書『猫と庄造と二人のをんな』のなかに「御所坊の二階で〜」との一節を記しているほど、お気に入りの宿であった。自筆の書は、かつて谷崎が宿泊していたという部屋の本棚に今も大切に保管されている。
ライブラリーには、日本に数台しかないという、初期のエジソンの蓄音機もさりげなく置かれている。のんびりと温泉に浸かった夜は、古き良き時代に思いを馳せながら、眠りにつく。価値観の大きく変動する現代において、大切なものは何かと語りかけてくる、隠れ家として大切にしたい宿だ。

Tel:078-904-0551
神戸市北区有馬町858
- 料金:
- モデレート24,600円〜(チェックアウト10時)
デラックス33,000円〜(チェックアウト11時)
※1泊2食2名様1室ご利用 お一人様当り、税金・サービス料込み、入湯税別
車で伊丹空港から20分・神戸空港から30分・関西国際空港から60分
(上)谷崎潤一郎が好んで宿泊していた部屋「楽」の間には、初版本や自筆の書が。
(左)半露天風呂の金郷泉(こんごうせん)。「金泉」と呼ばれる赤茶色で不透明な有馬温泉独特のお湯は、源泉から採取したもの。
(下)丹波野菜の蒸し煮と但馬牛の湯葉かけ。西と東、新と旧の融合は、お料理でも表現されている。18年も前から地産地消を考え、素材重視の逸品を供している。
Photo by Kyoko Ushioda


