JAPAN AIRLINES


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航空豆知識


文 日本航空 一等航空整備士
第34回
[Q] [旅客機はどれだけ速く飛べるか?]
[A]  静かな湖に石を一個投げたところを想像してください。石が湖面に落ちると、そこを中心にきれいな波の輪がいく重にもできます。飛行機の速さと何の関係が……とお思いの方、もう少しお待ちください。それでは、その湖面に今度は白鳥が泳いでいたとします。波はどんなふうにたつでしょう? 白鳥の進行方向は波の間隔が狭く、反対側は間隔の大きな波ができています。

 飛行機も音という波を発生させています。音は目には見えませんが、大気の中に空気の波を立体的に起こして、同心球状に伝えていきます。その飛行機が動き出せば、やはり同様の事象が発生します。音の速さは一秒間に約三四〇メートル、つまり音は時速に直すと約一二〇〇キロメートルで波のように広がっていることになります。一方、旅客機の速度は時速約九〇〇キロメートル。まさに自分がたてる音の波に追いつこうという勢いで進んでいるのです。このように音の速さより少し遅い速さで飛行する飛行機を遷音速旅客機といい、現在国内で使用されている旅客機のほとんどがこの種類に入ります。

 では、強力なエンジンが開発されて、それを搭載した旅客機なら音の速さを超えて飛べるか? というのが今回のテーマになります。まず、飛行機が音速を超える時、その前方には音の波が壁のように集まり、大量の熱が生じ急激な圧力変化、爆発音が発生します。この現象を衝撃波と呼びますが、飛行機が音速に近づくと機体のさまざまな部分で小さな衝撃波が発生し始めます。そして音速を超えようとする時には、機体全体を衝撃波が包みこむため、ジャンボジェット機のような形態では性能が急激に低下してしまいます。

 また、現在使用されているターボ・ファン・エンジンはファン・ブレードを回転させて推力を得ています。パワーを増すために回転をあげていけば、やはりブレードの回転速度が音速に達し性能が発揮できないので、「強力なエンジン」は従来と異なるタイプでなければなりません。

 音速を超える旅客機、すなわち超音速旅客機は、機体の形状・高温に耐えるための材質・エンジンタイプとあらゆる点で従来の旅客機と異なる仕様が求められます。超音速旅客機としては、イギリスとフランスが共同開発した「コンコルド」が有名です。衝撃波の影響を最小限にするために三角形の翼をつけた形が印象的です。ところで、コンコルドはなぜ日本の空を飛ばなかったのでしょう?

 一時期は、「より速い旅客機を……」という要望もあって、超音速旅客機の導入も考えられましたが、空港周辺の騒音問題や、超音速で飛行する場合の燃費、お客様の座席数や貨物スペース等の面から、狭い日本にはなじみにくいと受け入れられなかったのです。

 
イラスト
Illustration by Isamu Tachibana

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日本航空月刊誌『Agora』1998〜2003年掲載