「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain99 出入国スタンプ文=川添 剛(日本航空機長)
海外旅行へ出掛けるたび、パスポートに押される出入国スタンプ。楽しかった旅の思い出を振り返る、大切な印となっている方も多いのではないでしょうか。
私たちパイロットは、仕事がら、海外へ出掛ける機会も多く、よく「パスポートには、スタンプがいっぱい押されているんでしょう」などと聞かれたりしますが、皆さん、どう思いますか。
出掛ける国によって異なるのですが、パイロットや客室乗務員の場合、手続きを簡略化するために、出入国審査場では乗務員専用のカウンターを通り、パスポートにスタンプを押さないことが結構あります。例えば、アメリカやマレーシアでは、出入国を記録する別紙が用意されていて、それに記入するだけでスタンプを押すことはありませんし、韓国はコンピューターで処理を行うのみです。
日本の空港においても、同様に出入国スタンプは押さないので、実際、私のパスポートには滞在ビザを必要とする国のものであったり、必ずスタンプが押される中国のものがあったりする程度で、それほど多くのスタンプが押されているわけではありません。
また、私が担当している737-800型機は、中国や韓国などの国際線を飛んでいますが、飛行時間は短く、しかも現地に一時間から一時間半ほど滞在し、すぐに日本へ折り返してくるフライト・スケジュールもあります。この場合、旅客機の外部点検をする以外は、コックピットから出ることもほとんどなく、海外へ行っていながら入国しないこともしばしばです(ちなみに中国の場合、すぐに折り返して入国しない時でも、審査官が全員のパスポートを集めに機内へやって来て、出入国スタンプが押されて、戻ってきます)。
そんな、皆さんとはちょっと違う私たちのパスポートですが、たまに家族旅行で海外へ出掛けると、入国審査官はスタンプの押され方を見て、パイロットだということが分かるので、「仕事で来たのか、それともプライベートか?」などと質問されることもあります。また、一般の旅行者として行くと、その国に入国するにはどんな書類が必要なのか、知らないことも多いため、周りに「どんな書類が必要なの?」などと、海外慣れしている職業とは思えないような質問をして、笑われることもあります。
普段の乗務では押されることの少ないスタンプですが、その分、数少ない日本の出入国スタンプが、私たちにとっては、家族や友人たちと出掛けた、大切な旅の思い出となっています。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)

