「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain98 旅客機のクセ文=三輪邦雄(日本航空機長)
滑走路から飛び立った旅客機がスピードを増し、徐々に高度を上げていく中で、コックピットにいると、「あれっ、また少し音がするなぁ」などと気付くことがあります。
JALグループでは現在、四六機のボーイング777型機を国内線と国際線で運航していますが、同じ777であっても、微妙ながら機材それぞれにクセがあり、操縦しているとよく分かります。
例えば、あるスピードに達するとエンジンからわずかながら振動が伝わってくる、特定の高度で飛行している際に小さな音がする、飛んでいるときにほんの少し横に傾く傾向がある……など、さまざまです。
旅客機は製造段階で行われているボーイング社などの試験飛行、発注した航空会社が受け取る際に行うテストなど、いくつものチェックを重ねていますし、さらに日頃のフライトでも、整備士による厳しい確認作業が行われていますので、クセといってもほんのわずかな違いでしかありません。
ですので、安全運航という点ではまったく問題ないのですが、私たちパイロットは気が付いた旅客機のクセを航空日誌に記し、整備に伝えることで、旅客機をより良い状態にしようと、日々、努めています。
ある意味、旅客機それぞれの個性ともいえるクセですが、最近は環境問題の観点からも見過ごすことができません。中でも、飛行中にわずかでも横に傾くクセは要注意です。この場合、まっすぐ経路上を飛ばそうとすると、常に舵を動かして旅客機を修正してやらなければなりません。すると空気抵抗が増えて、燃費も悪くなってしまいます。また、そうしたずれを修正しようと、操縦桿で操舵し続けるのは大変ですし、乗り心地にも影響してきます。
主翼や尾翼に小さな板が付いていることを、ご存知の方も多いと思いますが、飛行中にこのようなクセが起こる場合、パイロットはその板の一部を動かして、機体バランスの微調整を行っています。この操作を私たちの世界では、「トリムをとる」と呼びます。
現在の旅客機はハイテク化が進んでおり、オートパイロット(自動操縦)を使って操縦することも多いのですが、旅客機にどんなクセがあるのか、微妙な部分を見極められるのは、やはり経験を積んだパイロットになります。
旅客機ごとのわずかなクセを見抜く──。日々の乗務と訓練で培われる私たちパイロットに欠かせない技量です。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)

