「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain94 冬のカミナリ文=三輪邦雄(日本航空機長)
新年を迎え、自宅や故郷でゆっくりとくつろがれたり、国内の温泉や海外のリゾート地へ出掛けられたりする方も多いのではないでしょうか。
本格的な冬となるこの時季、太平洋側の地域ではおおむね安定した晴天が続き、北日本や日本海側では雪が降るという、いかにも冬らしい天候となります。飛行機で国内を移動していると、そんな変化に富んだ日本の地形や気候を改めて実感させられます。
冬らしい日本の気候──、というと、パイロットとしては「カミナリに注意」という戒めが、すぐに頭に浮かんできます。
「カミナリが心配なのは、積乱雲(入道雲)が発達する夏の暑い時季じゃないの?」
と、思われるかもしれませんが、実は、日本は世界でも珍しい「冬のカミナリ」が多発する地域でもあるのです。
そもそもカミナリは、雲の中にある氷や水滴がこすれ合い、電気が発生することで生まれます。積乱雲の中でよく起こるのですが、冬の日本海の場合、暖かい対馬海流と冷たいシベリア高気圧の相互作用により上昇気流が発生し、積乱雲が生まれます。この雲によって、主に日本海側の地域で冬のカミナリが起こるのです。
夏の積乱雲は、旅客機が巡航する高度一万メートルを超える高さにまで成長するのに対し、冬の積乱雲は、日本上空を通る偏西風の影響などを受け、あまり高くはなりません。せいぜい高度5,000メートル程度です。
また、夏のカミナリの場合、雲の中でピカピカと光り、放電している光景がよく見られます。これに対し、冬のカミナリはエネルギ
ーをじっとため込み、ほとんど光ることはありません。そして、飛行機などが雲に近づくと、突然、ピカッと光り、落雷するのです。
まるで、空に潜んでいる忍者のような冬のカミナリですが、私たちはコックピットの中にある積乱雲を捉えるレーダーを駆使して、こうした雲の状況を確認し、避けながら飛行しています。雨や雪が降っていたり、闇夜の飛行などでは、目で雲を探すことは難しいのですが、このレーダーを利用することで、雲の状況を見極め、カミナリが落ちる危険を回避することができるのです。
ちなみに、万が一、飛行機にカミナリが落ちても、安全に飛行できるように設計されていますので、ご安心ください。
ぼんやりとした雲が、立ちこめる冬の日。その雲、実はカミナリが潜んでいるかもしれませんよ。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)

