「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain93 猫の手助け文=中村貴幸(日本航空機長)
広島空港へ向かう道路を進んでいくと、途中で見えてくる巨大な赤い鉄の建造物。
「あの不思議な“橋”のようなものは何? 滑走路を延ばす予定でもあるの?」
などと、疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実はこれ、滑走路の延長上にあり、方向や位置を示す「進入灯」を設置するための鉄橋です。通常は、地面の近くに設置されるものなのですが、広島空港は山を整地して建設されたため、谷の部分の地表と滑走路の高低差を補うために、長さ約800メートル、最大で高さ約70メートルもの鉄橋が造られました。鉄橋の上には、30メートル間隔で進入灯が並び、夜間や天候の悪い時などの着陸をサポートしてくれます。
「広島空港って、霧が出やすい場所だけど、最新の設備が整って、着陸できないことが少なくなったんだよね」
詳しい方ならご存じだと思いますが、2008年に、広島空港は「CATⅢb」と呼ばれる最も精度の高い計器着陸装置を備えた空港になりました。「CAT(キャット)」とは、カテゴリーの頭三文字を取ったもので、自動着陸装置を使って、着陸するための「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲa」「Ⅲb」の4つのレベルを示しています。
機種ごとに決められている計器着陸の性能、パイロットの資格などのさまざまな条件にもよりますが、着陸するための条件として、「CATⅠ」の設備がある空港の場合、滑走路上の視界が550メートル以上、必要になります。さらに、「Ⅱ」では350メートル以上、「Ⅲa」では200メートル以上、「Ⅲb」では100メートル以上と、より厳しい条件での着陸が可能となります。
MD-90の場合、「CATⅢa」までの着陸性能を持っています。実際、深い霧に包まれている広島空港へ着陸すると、見えるのはすぐ目の前だけといった印象です。ハイテク装置によって、安全に着陸
できますが、その後は副操縦士と二人で目をこらしながら、誘導路の曲がる場所や駐機場までの道を探したりすることもあります。
ちなみに、「CATⅡ」以上の設備が整っているのは、国内では羽田空港、成田国際空港、中部国際空港、関西国際空港の主要空港に加え、釧路空港、青森空港、広島空港、熊本空港と、霧の出やすい空港になっています。
夜間や見通しの悪い時に役立つ「CAT」。その名の通り、「猫」の目となって、空の安全に一役、買っています。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)

