「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain88 エンジンの違い文=南雲恒昌(日本航空機長)
飛行機に乗り込む前の打ち合わせ時。飛行計画書に記された機番を見て、私たちボーイング767を担当するパイロットは「今日のエンジンは、こっちか」と確認します。
空港を訪れると、いろいろな大きさの飛行機がありますが、エンジンの形もそれぞれ違うことに気づかれたことはあるでしょうか。
通常、皆さんが乗る自動車やバイクは、車体とエンジンが一体になっていて、別々に購入して組み立てるようなことはありません。ところが、飛行機の場合、機体に合わせて、複数のメーカーがエンジンを製造することが一般的で、同じ機種でも、航空会社によって選ぶエンジンが異なります。
飛行機用ジェットエンジンの主な製造会社は、ゼネラル・エレクトリック(GE)、プラット・アンド・ホイットニー(P&W)、ロールス・ロイス(RR)の三社です。
JALグループのボーイング767には、このうちの二社のエンジンが搭載されていて、機体が短めの-200型機はP&W、長めの-300型機はP&WとGEのいずれか、長距離仕様の-300ER型機(ER=ExtendedRange)はGEのより推進力のあるエンジンと、同じ機種でありながら、細かく見ると四つのタイプの飛行機を運航していることになります。
では、パイロットから見て、この二社のエンジンにどういった違いがあるかというと、P&Wに比べ、GEは最大推進力が大きい(パワーがある)という特徴が挙げられます。また、GEには、「スロットレバー」と呼ばれるエンジンの出力を制御するレバーを動かすと、自動的に左右のエンジンバランスを調整してくれる機能が付いていますが、P&Wにはそうした機能がないため、計器を見ながら手動でレバーを微調整し、エンジンのバランスを取ります。
このように二社のエンジンに違いはあるものの、運航における支障はほぼありません。強いて挙げれば、エンジンが異なると、同じ-300型機でも最大離陸重量などの制限値が変わってくるので、打ち合わせの際に確認します。
ちなみに、座席に座っていて、どちらのエンジンを積んでいる機材か、皆さんでもわかるちょっとした技があります。それは“音”です。前述のとおり、P&Wのエンジンは左右のバランスを手動で調整するので、上昇などの高出力時に微妙なズレが生じ、「ウワン、ウワン」という感じのハウリング音が聞こえることもあります。
次回、飛行機に乗られる際には、静かに耳を澄まして、ぜひエンジン音を聞いてみてください。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)

