「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain84 大草原の香り文=南雲恒昌(日本航空機長)
マジュロ、フフホト、コロール、シェムリアップ――。
これらの地名を聞いて、皆さんは地球上のどこにあるか、すぐお分かりになりますか。また、これらの場所はある共通点を持っていますが、それは一体なんでしょうか。
JALグループでは、世界各地に定期便を運航していますが、その他にも時々、通常は運航していない空港へチャーター便を飛ばしています。
先に挙げた四つの都市は、私が担当しているボーイング767型機が運航した目的地で、マジュロは太平洋に浮かぶマーシャル諸島の首都、フフホトは中国・内モンゴル自治区の区都、コロールは南国の島で人気の高いパラオ共和国の都市、シェムリアップは世界遺産「アンコール」で知られるカンボジアの州都です。
そうした中、私も昨年、モンゴルの首都・ウランバートルから日本へ向かうチャーター便を担当する機会がありました。
「なかなか行ける場所じゃないから、面白かったでしょう」と思われるかもしれませんが、パイロットの立場からすると、初めてで経験のない航空路や空港となるため、事前の調査や準備にはじまり、各担当者との打ち合わせ、実際の操縦、現地の管制官との交信など、いろいろと緊張を強いられる仕事となります。それでも、乗務の前には「モンゴルの大草原はどんな感じなんだろう」などと、少なからず興味を抱いていました。
今回のチャーター便は、まず日本を夜に出発する便に交代要員として搭乗して、深夜にウランバートルへ到着。現地に到着したらすぐにお客様を乗せて、ウランバートルから日本へ向かう折り返し便を操縦するというものでした。
そのため、実際、モンゴルに滞在していたのはわずか数時間。到着や出発が明るい時間だったら、空港の周囲に広がる大草原を眺める機会もあったでしょうが、いずれも深夜で、あいにく月明かりもなかったため、辺りはひたすら暗闇が広がっているだけでした。また、空港から外へ出る機会もなく、モンゴルの大地を踏みしめたのは、出発前に行った旅客機の外部点検のときだけです。
私にとって、なんとももどかしい初めてのモンゴルとなりましたが、それでも駐機場に降りて機体を点検している際、風の中に草の強い香りが感じられたときは、「これがモンゴルかぁ」と、感動を覚えました。
モンゴル=大草原の香り。今でも時々、あのときに嗅いだ草の香りを懐かしく思い出します。
日本航空 月刊誌『Agora』より(2003年から連載中)

