「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆様にお届けするエッセイです。
Captain80 星空のフライト文=南雲恒昌(日本航空機長)
皆さんは、南十字星を見たことがありますか?
日本ではほとんど見ることのできない有名な星なので、南半球を訪れた際、夜空の中に南十字星を探したことのある方も多いと思います。
私も小さい頃から星が好きだったので、初めて南半球を訪れ、実際に南十字星を見たときは感動しました。それは忘れもしない、ブラジルのサンパウロへ飛ぶフライトを担当したときです。私は経由地のニューヨークから乗り込んだのですが、南十字星など、それまでプラネタリウムでしか見たことのない南半球の星空を実際に眺められたことに、とても興奮したのを覚えています。
機上から眺められる星座として、オリオン座も印象的です。長方形の真ん中に三つ星が並ぶ有名な星座ですが、別名「旅人の星」と呼ばれていることをご存じでしょうか。
通常、中央にある三つの星は、夜空に斜めに並んでいる状態で眺められます。しかし、オリオン座が地平線から姿を見せるとき、三つ星は真っ直ぐ縦に並んで現れ、その方向は必ず真東なのです。
地上では、地平線を見渡せる場所が少なかったり、海が広がっていても雲があったりと、なかなか星座が上がってくる様子を眺められませんが、空の上では出合える機会がしばしばあります。オリオン座の三つ星が、時間の経過とともに一個ずつ上がってくる姿は感動的ですし、その昔、砂漠を旅した隊商がこの三つ星で方角を知ったという言い伝えがあることにも、ロマンを感じます。
そんな素晴らしい星の世界ですが、では、旅客機はどこまで星に近づくことができると思いますか。
もちろん、エンジンや翼の構造上、旅客機は空気がないと飛ぶことができないため、真空の宇宙空間へ行くことはできません。
しかも、もっと重要な問題として機内の気圧があります。
旅客機では、気圧の低い上空(約0.2気圧)を飛行しても、お客様の負担にならないよう、「与圧」と呼ばれる調整をして、機内の気圧を高くしています(約0.8気圧)。旅客機が飛行できる最大高度を決めるのは、エンジンの性能とともに機体を維持できるか、すなわち機内の気圧を保てるかどうかで、ボーイング767の場合、高度43,100フィート(約13,100メートル)が運用限界となっています。
いつの日か、星へ行ける時代が来ることを願いながら、夜空を飛行しているこの頃です。
日本航空 月刊誌『Agora』より(2003年から連載中)

