「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆様にお届けするエッセイです。
Captain78 管制官との交信文=三輪邦雄(日本航空機長)
今、皆さんは羽田空港から鹿児島空港へ向けて、飛び立とうとしています。お客さま全員の搭乗が終わり、扉が閉められて、客室乗務員による挨拶が始まりました。
同じ頃、コックピットの中では、飛行計画に基づき、管制官との交信が始まります。
「こちらJAL○○便。鹿児島空港までのルート承認をお願いします」実際には英語でのやりとりですが、映画やドラマなどで、パイロットが管制官と交信するシーンをご覧になることもあるかと思います。
それでは、羽田から鹿児島へ飛ぶ場合、いったい何人の管制官と交信し、許可をもらうことになると思いますか?
航空機に詳しい方でしたら、日本の空は四つの管制空域(札幌・東京・福岡・那覇)に分かれていて、それぞれに管制官がいることをご存じだと思います。今回の飛行ルートは、「東京」と「福岡」の管制空域を通過するので、「二人と交信するのでは」と思われるかもしれませんが、この四つの管制空域とは、おおよそ高度4000メートル以上についてです。さらに、それぞれの管制空域は細かくセクター(区域)に分かれていますし、また、高度が低くなる空港周辺では、空港にいる管制官と交信し、許可をもらわなくてはいけません。
順を追って解説すると、羽田空港で出発準備の整った旅客機は、まず「クリアランス・デリバリー」(管制承認)と交信し、飛行計画の承認をもらいます。その後、駐機場から滑走路までの移動を「グラウンド」に許可してもらい、滑走路から飛び立つ際には「タワー」、離陸してから空港周辺を上昇している間は「ディパーチャー」と、担当する管制官が替わっていきます。
やがて、高度が高くなると「東京」の管制空域となり、セクターごとに管制官と交信し、紀伊半島を過ぎるあたりで「福岡」の管制空域へ入ります。再び、セクターごとに管制官と交信し、鹿児島空港へ近づいて高度が下がると「アプローチ」、滑走路へ近づくと「タワー」、着陸後には「グラウンド」と、次々に管制が引き継がれていきます。
先日、担当した羽田から鹿児島へ向かうフライトでは、13人の管制官と交信しました。忙しい空域では、数分ごとに管制官が替わることもあり、その度に、コックピットでは無線の周波数を変更しています。
皆さんは聞く機会がほとんどない交信ですが、地上からも大勢の管制官が、空の安全を支えています。
日本航空 月刊誌『Agora』より(2003年から連載中)

