「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆様にお届けするエッセイです。
Captain77 選択肢という財産文=中村貴幸(日本航空機長)
空港内にあるゲームコーナーをのぞいてみると、よく旅客機の離着陸が体験できるシミュレーションゲームが置かれています。ゲームといえどもよくできていて、お子さんと一緒に遊ばれたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
以前、ゲームのことが話題に上った際、こう尋ねられました。「実際、羽田のような離発着便が多い空港は、操縦するのが大変なんでしょうね」
朝、夕の混雑時ともなれば、羽田空港や伊丹空港では2〜3分間隔で旅客機が離発着するので、いろいろと気をつかう必要があります。ですが、パイロットの感覚からすると、
「確かに旅客機が多いので大変な部分もありますが、むしろあまり混雑しない地方空港の方が気をつかうこともあるんですよ」
というのも、実感としてあります。
どういう意味かというと、大きな空港の場合、着陸機はレーダーなどの誘導に従い、管制官の指示を受けて、滑走路に進入していきます。天候や気象条件が厳しくなれば、指示されるルートはより狭くなり、たとえるなら高速道路の料金所に向かって、何台もの自動車が列を作っているような感じになります。近くにいる別の自動車と接触しないように運転する必要はありますが、順番通り列に並んでいればいいので、他のことにあまり気をつかわなくて済みます。
一方、それほど混雑しない地方空港の場合、天候が良ければ、自分の目と操縦席にある計器で位置を確認しながら滑走路へと向かっていきます。高度や位置など、空港ごとに着陸のための操作マニュアルはありますが、その時の天候や風に合わせ、安全性や快適性などを考慮してパイロットが判断しなければならないことが多くなります。
つまり、幾通りもある選択肢の中から最適なルートを選ぶ機会が多く、パイロットの技能が問われるところが、地方空港の難しさといえます。
私自身の場合ですと、例えば釧路空港へ着陸する際には、「今日の条件だったら、海岸線のところで高度何フィート、速度何ノット」といった数値であったり、千歳空港から花巻空港へ向かう際には、「この風だったら、早池峰(はやちね)山から空港に向かって北東からアプローチする」といったルートであったり、これまでの経験からいくつもの選択肢を用意して、対応しています。
パイロットとしての財産ともいえる”選択肢”。日々の安全運航の積み重ねから、培われています。
日本航空 月刊誌『Agora』より(2003年から連載中)

