「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆様にお届けするエッセイです。
Captain74 第3の乗務員文=三輪邦雄(日本航空機長)
「ただ今より、すべてのお客さまのご搭乗を開始いたします―」
搭乗開始のアナウンスが流れ、ボーディングブリッジを通って機内へ乗り込む途中、通路の窓からコックピット内の様子が一瞬、ご覧になれることがあります。制服を着たパイロットが2人並んで座り、出発を前にして、さまざまな確認作業に追われているのが分かると思います。
私が担当するボーイング777をはじめ、国内線を運航するほとんどの機種では、コックピットにいるのは機長と副操縦士の2人です。しかし、時として、皆さんには見えないコックピット内の後方席に、別の人物が乗っていることがあります。
「それって、エンジンの出力を見たり、システムのチェックをする”航空機関士”でしょう」と答えられる方は、かなり旅客機に詳しい方です。ですが、今回は違います。確かに、機長、副操縦士、航空機関士と、コックピットに3人の運航乗務員が乗る機種もありますが、現在の旅客機はハイテク化が進んでおり、基本的にパイロットは2人です。つまり、旅客機の操縦には直接、関係のない人物が乗っているのです。
これを、私たちの専門用語では「オブザーブ」と呼ぶのですが、では、一体、誰が乗るのでしょうか?
その例として、まず、パイロットの訓練生がいます。大型旅客機の操縦免許を取得するための前段階としてコックピットに同乗し、旅客機の操作を実際に見ます。同じような訓練は、訓練生に限らず、機長になってからも行います。例えば、今まで飛んだことのない空港への離着陸を経験するため、オブザーブ席に座って勉強したりするのです。
また、1年に1回、チェッカーと呼ばれる社内の審査官がオブザーブし、操作手順などを審査します。この場合、後方から先輩機長の厳しい目が向けられ、安全運航のための確認が行われます。
最後に、機長が仕事としてオブザーブすることもあります。長距離を飛ぶボーイング777では、機長と副操縦士の他に、もう1人、交代要員の機長が同乗する場合があり、離着陸の際、オブザーブ席に座ります。この場合、自分で操縦桿を握るわけではありませんが、同僚のやりとりを確認したり、時には後方からサポートしたりすることもあります。
いずれの場合も、より安全な運航のための勉強や訓練、補助としてオブザーブは行われており、皆さまに、安全で快適なフライトをお届けする役割を担っています。
日本航空 月刊誌『Agora』より(2003年から連載中)

