「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆様にお届けするエッセイです。
Captain72 目標は”負けない”こと文=南雲恒昌(日本航空機長)
「パイロットをしていると、1年中、飛び回っているわけでしょう。週末って感覚はあまりないですよね」
時々、このように聞かれることがあります。確かに、仕事上では土日、祝日というのはあまり意識しませんが、パイロットといえども仕事を離れれば、小学生の子供を持つ1人の父親です。休みが週末ともなれば、子供が所属しているサッカーチームの手伝いなどで、忙しく動き回っています。
練習ではお父さんコーチとして、子供たちと汗を流しています。また、試合が行われる際には、審判の資格を持つ人が必要とされることもあり、お役に立てればと思い、講習を受けて四級審判を取得しました。
以前、市が主催する大会で、私の子供が所属しているチームと、Jリーグに所属している横浜F・マリノスののU-12(小学6年生チーム)が対戦しました。結果は17対0で完敗。さすがに、選び抜かれた子供たちの実力は図抜けていて、まったく歯が立ちませんでしたが、グラウンドの外から観戦していた親の1人としては、惨敗からでも子供たちには何かを学び取ってほしいと思いました。
さて、サッカーを通じて子供たちと接していると、チームには「勝つ」ことを目標にすることの重要さを感じます。もちろん、参加している子供たちは、「将来プロ選手になりたい」「友達を作りたい」「運動してダイエットしたい」など、さまざまな目的を持っています。それでも、チームとしてはやはり「勝つ」という目標へ向けて練習し、努力することで結束し、子供たちはそこからさまざまなことを学んでいきます。
一方で、空の世界を考えると、私たちに「勝つ」ことは必要ありません。パイロットをはじめ、客室乗務員、整備士、地上スタッフなど、旅客機に携わる全員の目標は、とにかく”安全な運航”です。ここで求められるのは、大差をつけて「勝つ」ことではなく、泥臭くてもいいから絶対に「負けない」ことなのです。
最近は「勝ち組」や「負け組」など、「勝つ」ことがやたらともてはやされるような風潮があります。そんな時代であっても、私たちは「今日のフライトは、別にいつもと変わらなかったね」とお客様から言われるような、常に安全で、普段と変わらない(言ってみれば「負けない」)運航を心掛けています。
子供には「頑張って勝て」と檄(げき)を飛ばし、後輩パイロットには「勝とうなんて思うな」と教える。そんな二面性が重要な職業です。
日本航空 月刊誌『Agora』より(2003年から連載中)

