 |
 |
 |

Captain 67 |
 |
文=宮田正行(日本航空機長)
Text by Masayuki Miyata
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo |
 |
 |
 |
|
 |
 |
 |
 |
家への帰り道。ふと見上げると、夜空に満月がポッカリと浮かび、「今宵の月はきれいだなぁ」などと、この時期は秋の深まりをしみじみと感じてしまいます。
昔は、月を基準にした暦(太陰暦)を使っていたので、満月や半月、三日月、新月などは、生活にとても深い関わりがあったと思いますが、太陽暦が当たり前になった今では、月の満ち欠け(月齢)を日常的に気にされている方はきっと少ないでしょう。月齢を気にする職業で皆さんがすぐに思いつくのは、潮の満ち引きが重要となる漁師さんなどではないでしょうか。
さて、意外かもしれませんが、海とは遠く離れた上空を飛んでいる私たちパイロットも、月齢にとても注意を払う職業の一つです。
旅客機は一年中、昼夜を問わず世界中の空を運航していますが、夜間フライトの場合、上空に浮かぶ月は夜空を照らしてくれる大切な明かりで、満月と新月では、風景の見え方がまったく異なります。
安全で揺れの少ないフライトを常に心掛けている私たちにとって、夜空で見たいものは、ずばり「雲」です。特に、赤道を通過するオーストラリア線、南シナ海の上空を飛ぶ東南アジア線などは、積乱雲の動きが活発で、時には旅客機の巡航高度(高度一万メートル以上)を遥かに超える高さまで成長するものがあります。それらを避けながら運航するのですが、満月では遠くの雲まではっきりと見えるのに対し、新月ではかなり見えづらくなります。
旅客機の先頭部には、雨雲などを映し出すレーダーが備えられており、常に確認しているので、新月の場合でも安全に飛ぶことができます。しかし、飛行ルートを決めるのは、機械ではなくパイロットですので、月明かりがあって、目の前にある雲の状況を眼で確認できれば二重のチェックにもなり、より安心です。
現在の旅客機は、優れたレーダーやコンピューターが搭載されていて、それらは時に、人間の能力よりも遥かに優秀です。しかし、機械は決して万能ではありませんし、最終的には人間が判断しなくてはいけません。積乱雲が多く発生する路線は、「機械を頼りすぎず、最後は自ら判断しなくてはいけない」という教訓を後輩パイロットに伝え、実際に学ばせることのできる場にもなっています。
パイロットの仕事には欠かせない月齢。今宵は満月か新月か、皆さん、ご存じですか? |
 |
|
 |
 |
| 日本航空 月刊誌『Agora』2003年より連載 |
|