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コックピット日記
Captain 61
文=中村貴幸(日本航空機長)
Text by Takayuki Nakamura
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
雨でも天気良好
 皆さんは、天気予報をご覧になるとき、何を気にしますか?
 ご旅行や出張に出られる方なら、雨が降るかどうか、降水確率は何%かなどを、いつも以上に気にされることでしょう。
 私たちパイロットにとっても、安全運航をするために天候はとても大切で、出発前の打ち合わせでは必ず確認する項目になっています。でも、皆さんとはちょっと違った見方をしています。例えば、機長と副操縦士で、こんな会話がよく交わされます。
「今日は雨が降ってるけど、天気は良いね」
 雨の程度によっては、傘を持って行こうかどうか、上着を一枚多く用意しようかどうかなど、何かと煩わしいものですが、旅客機を操縦する立場としては、実はそれほど雨を気にしていません。
「車を運転するときなんか、雨が降ると嫌なものだけど……」
 このように思われる方もいらっしゃるでしょうが、地上で雨が降っていても、旅客機は離陸後しばらくすると雨雲の上に出てしまいます。そして、上空の天気はほとんど晴れですので、パイロットとしてはそれほど雨が気にならないのです。
 では、私たちが天気予報で何を気にするかというと「上空の風」です。皆さんも新聞やテレビなどで、天気図を見る機会が多いと思いますが、これは「地上天気図」と呼ばれるもので、地上付近の気圧の違いが等圧線で示され、前線や風向き、風力などが記されています。
 一方で、パイロットが知りたいのは、「上空」の気象状況であり、こちらは「高層天気図」と呼ばれる専用の天気図を用います。
 この天気図には、旅客機のほぼ巡航高度に当たる300(長距離)、500(短距離)ヘクトパスカル面、富士山山頂付近の高度となる700ヘクトパスカル面など、気圧ごとの状況が示されています。これらの高層天気図、さらには空域断面図などを参考にして、私たちは上空の前線やジェット気流の場所・高度・強さ、高気圧や低気圧の状態などを調べ、どのようなルートを通れば風の影響で揺れることが少なく、安全運航ができるかを確認しています。
 皆さんにとっては嫌な雨でしょうが、私たちにとって重要なのはむしろ「上空の風」です。そのため、雨が少々強く降っていても、風の状況さえ悪くなければ、コックピットの中では、「今日の天気は良いね」というような、ちょっと不思議な会話が交わされるのです。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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