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コックピット日記
Captain 60
文=南雲恒昌(日本航空機長)
Text by Yoshimasa Nagumo
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
風のマジック
「旅客機って、いったい何キロまでスピードが出せるんですか? 機内の画面を見ていると、乗る旅客機によってずいぶん違うような気がするんですけど……」
 これは、お客様からよく尋ねられる質問です。その度に私は、「時速600キロだったり、1100キロだったりといろいろですが、旅客機自体はいつも同じ速度で飛んでいますよ」などと答えています。
 説明を聞いた多くの方は、不思議な表情をされますが、どういうことか、皆さんはお分かりになりますか。
 旅客機の巡航スピードを示す際、私たちパイロットは音速に対しての速度「マッハ」を使います。音の伝わる速さは、海面上で気温15℃の場合、秒速約340メートル(時速約1225キロ)で、旅客機が飛ぶ上空では気温などにより変化します。
 ボーイング767の場合、巡航速度は「マッハ0.8」に設定されており、常にこのスピードで飛行するようにしています。ちなみに、上空1万メートルで、音速が秒速300メートルとなる状況ですと、ここを巡航飛行する旅客機のスピードは、マッハ0.8=時速約864キロとなります。
 それでは、常に同じスピードを出しているはずなのに、どうして画面に表示される速度が違うのでしょうか?
   その原因は「風」です。旅客機は常に風の影響を受け、中でもジェット気流は時速300キロを超えることもあり、スピードを大きく左右します。
 先日、神戸空港から那覇空港へ飛んだ際、平均時速150キロの向かい風を受けたため、平均飛行速度は時速700キロほどでした。その後、羽田空港へ向かって飛んだ時には、一転して平均時速170キロの追い風となり、平均飛行速度は時速1000キロを超えました。いずれの場合も、旅客機自体が出している速度は同じです。
 風の影響を受けながら旅客機が飛んでいる速度(地面に対する速度)は「対地速度」と呼ばれ、皆さんが機内でご覧になる画面に表示されています。旅客機と風の関係を知っていれば、画面の飛行速度を見て、「今日は追い風なのか、向かい風なのか」「どのくらい風が吹いているのか」などを、読み取ることもできるのです。
 数値一つで、目に見えない風を把握できるのって、興味深いですよね。ところで、今、皆さんが搭乗されている旅客機の対地速度は、時速何キロですか?
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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