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コックピット日記
Captain 58
文=三輪邦雄(日本航空機長)
Text by Kunio Miwa
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
深夜に“花”を運びます
 夕方から続いたラッシュアワーも終わり、間もなく日付が変わろうとする羽田空港。一機の旅客機が滑走路から、今まさに離陸しようとしている。行き先は沖縄本島にある那覇空港。機内には機長と副操縦士が乗っているだけで、お客様は一人もいない。さっきまで羽田行きの最終便として活気に溢れていた客席は、暗闇と化していて、どこか寂しげな雰囲気すら漂っている……。
 小説なら、これから何か事件でも起きそうな書き出しですが、実はこの旅客機、沖縄から東京まで「花」を運ぶために出発しようとしている便で、私たちの間では「切り花チャーター」と呼ばれているフライトです。
 日本航空では、皆さんにご搭乗いただいている旅客機の他に、貨物専用機も運航しており、ご存じの方も多いと思います。通常の貨物は、この貨物専用機や、全国各地を結んでいる定期旅客便の貨物室を使って運んでいますが、季節に合わせて依頼を受ける荷物や、急いで運ぶ必要があるものの場合、旅客機を貨物便として運航することもあります。その一例が「切り花チャーター」なのです。
「切り花」というものの、運ぶのはほとんどが「菊」の花です。年末年始や春のお彼岸に合わせて依頼を受けることが多く、羽田空港を夜11時頃に飛び立ち、那覇空港で貨物室を花で一杯にし、明け方の5時頃に再び羽田空港へ戻ってきます。その後、トラックに積み替えられ、全国各地へ花が運ばれていきます。
「旅客機の貨物室だったら、あまり多くの荷物を積めないのでは?」
 と、思われる方もいらっしゃると思います。もちろん貨物専用機にはかないませんが、胴体の長いボーイング777-300型機は、日本航空が保有する旅客機の中では最も貨物室が広く、ジャンボと呼ばれるボーイング747型機の貨物室に比べ、およそ1.5倍となる44個のコンテナを積むことができるのです。
 また、最近増えつつある24時間離着陸可能な空港間においては、国内旅客便が飛んでいない深夜に飛ぶことで、より効率的に時間を使って貨物が運べ、なおかつ、いつもなら最終便の後に翼を休ませている旅客機も稼働できるという利点があります。
 花が少なくなる冬の時期。皆さんの周りや店頭に、菊の花はありませんか。もしかしたら、旅客機で沖縄からはるばる運ばれてきた花かもしれません。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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