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Captain 54 |
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文=三輪邦雄(日本航空機長)
Text by Kunio Miwa
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo |
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最近、家族を連れて米国のグランド・キャニオンへ旅行してきました。コロラド川によって造られた深い峡谷、その広大なスケールは何といっても圧巻で、間もなく70代になる両親も興奮していたようです。私にとっては3度目となるグランド・キャニオンでしたが、何度訪れても飽きることなく、こんな場所は地球上にそうそうないだろうと、ただ見惚れるばかりでした。
そんな感動を覚えたのも束の間、先日、欧州へのフライトでロシア上空を飛行していた時、グランド・キャニオンにそっくりな地形を見つけたのです。中央シベリア高原にあるプトラナ山地と呼ばれる場所で、ノリリスクという町の東側に広がっている台地です。深く削られた崖の底を川が流れている様子が、上空からでもはっきりと見えました。パイロット同士で、「これはすごいな〜」と感動したほどです。広大なシベリアには私たちの知らない、素晴らしい自然がまだまだ埋もれているんだと、実感させられました。
日本と欧州を結ぶ旅客機がシベリア上空を通過することは皆さんもご存じでしょうが、飛行ルートには複数あり、最近になって、最も北側(北緯70度近く)を通る新たなルートができました。プトラナ山地で見た光景も、この新しい飛行ルートを通ったことで発見できたのです。
このルートは、従来から使用しているルートに比べて、距離が200キロほど短く、気象条件にもよりますが、その分だけ飛行時間が短く、使用する燃料も少なくて済む効率の良い飛行ルートです。 「それなら、毎回このルートを通れば?」と、思われるかもしれませんが、欧州へ向かう西行きの場合は効果的なものの、逆に日本へ向かう東行きの場合、従来の南側のルートを通った方が、追い風となるジェット気流に乗る機会が増えるため、距離は長くなっても効率の良い場合が多くなります。
そのため、皆さんがグランド・キャニオンにも負けない景色を眺められるチャンスは、欧州へ向かう便の方が高くなります。しかも、シベリアは真っ白な雪に覆われている時期が長いので、この絶景に出合えるのは、夏の数ヵ月間に限られます。
シベリア上空では、お休みになっているお客様も多いと思いますが、移りゆく地球の表情を窓から眺めていると、ガイドブックにも載っていない自分だけの絶景を発見できるかもしれません。 |
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| 日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載 |
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