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コックピット日記
Captain 51
文=宮田正行(日本航空機長)
Text by Masayuki Miyata
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
“人生初の単独飛行
 皆さんはナパという地名をご存じでしょうか。米国のサンフランシスコ近郊にある町で、世界的にはカリフォルニア・ワインの産地として知られています。ブドウ畑が広がるなんとものどかなところですが、ここには日本航空のパイロット養成施設があり、私たちにとっては若い頃、訓練に明け暮れた思い出深い場所でもあります。
「パイロットを目指すぐらいだから、小さい頃から飛行機が好きで、世界各地を旅した経験を持つ人も多いんだろう」と思われがちですが、私も含めて自社養成コースで入社してきた同期のほとんどは、飛行機に関してまったくの素人でしたし、中にはナパが人生初の海外渡航で、初めてパスポートを取得したという者もいたくらいです。
 そんな素人集団が初めて飛行機を操縦するのが、ナパなのです。ここは天候が良く、飛行のための広い空域が確保されています。訓練期間は約1年半、厳しい指導が行われます。数多くの試験をクリアしなくてはならず、2度続けて失敗すると、その時点でパイロットへの道が閉ざされてしまうという厳しいものです。
 どの訓練も印象に残っていますが、「もっとも緊張した瞬間は?」と尋ねられれば、ほとんどのパイロットが初の単独飛行を挙げるでしょう。操縦訓練はプロペラエンジンが1つ付いている単発機から始まります。最初は教官が一緒に乗り、エンジンの始動方法から滑走、離陸、巡航飛行、着陸などを学んでいきますが、1ヵ月ほど経つといよいよ1人で操縦します。操縦手順などは何度も訓練してきたものの、コックピットに1人きりになるというのは予想以上に不安なもので、頭の中が真っ白になったりするものです。
 そんな記念すべき単独飛行には、同期の仲間が集まってビデオ撮影してくれたり、同じくナパで訓練している先輩たちも見学にやってきます。そして、見事、フライトを終えて駐機場へ戻ってくると、着ているTシャツの一部を切り取り、それに所長や教頭、教官、先輩たち、同期の仲間などが寄せ書きするというのが、ナパ恒例の行事となっています。
 パイロットになるための長い道のり、その第一歩を踏み出したに過ぎない初の単独飛行ですが、すべてのパイロットにとって忘れられない、思い出深い瞬間です。
 今も私の自宅にあるタンスの中には、当時、みんなから祝福された記念の寄せ書きが大切に保管されています。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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