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コックピット日記
Captain 50
文=三輪邦雄(日本航空機長)
Text by Kunio Miwa
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
“探検家の気持ち
 皆さんの中で、北極点に行った経験をお持ちの方はいらっしゃいますか?
「極寒でしかも氷の上なんだから、普通は無理だろう」と、ほとんどの方が答えると思います。
 もちろん、私も探検家ではないので北極点に立ったことはありません。でも、北極点の真上を通ったことは何度かあるのです。
 現在、日本からヨーロッパへ向かう旅客便の多くはロシア上空を飛んでいきますが、カーゴと呼ばれる貨物便は米国アラスカ州のアンカレジを経由し、北極圏を通過してヨーロッパ各都市を結んでいます。私もかつてジャンボ(ボーイング747)に乗務していた時、貨物専用型機を担当することが度々ありました。
 北極圏を通るルートは複数決められていますが、アンカレジとフランクフルト(ドイツ)を結ぶルートの中には、北極点のちょうど真上を飛ぶものがあります。フライト前の打ち合わせで、北極点を通過するルートだと分かると、何だかワクワクするものです。フライト中も計器を見ながら、北極点へ近づいていくごとに気持ちが高ぶっていき、北緯90度に達したことを確認すると、コックピット内では自然に「来てしまいましたね」などと感想が漏れ、うれしさが込み上げてきます。
 もちろん北極点といっても、窓から見えるのは真っ白な氷海と点在する青白い氷です。時には厚い雲に覆われていて、計器で北極点に到達したのを確認するだけのこともあります。それでも、多くの探検家が命をかけて挑んできた場所であることを想像すると、こうして飛行機で来られる幸せをしみじみと実感してしまいます。
 では、同じように皆さんが旅客機で北極点を通過する機会はあるかと聞かれると、現在はほとんどありません。北極圏の中でも北極点に近い空域を飛んでいるのは、日本航空便をはじめ他社便も含めて大多数がカーゴであり、しかも北極点の真上を通るとなると、ごく一部のルートに限られます。
 現在では、GPSなどを使って北極点の位置を正確に知ることができますが、かつては天測などを頼りに、犬ぞりに乗って何日間もかけて探検家が北極点を目指したことへ思いを馳せると、こうやって一気に飛んで来られるのはパイロットであればこそと、感じずにはいられません。
 北極点には昔も今もかわらず、人間の探検心をかき立てる魅力があるようです。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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