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コックピット日記
Captain 40
文=高桑久仁昭(日本航空機長)
Text by Kuniaki Takakuwa
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
星の誘い(いざない)
 無数の星が天空を埋め尽くし、雄大な「天の川」がくっきりと浮かび上がる夏の夜。力強く輝く星、柔らかい光で瞬く星など、さまざまな星がある中で、悲しい運命を背負い続ける二つの星がある。互いに愛し合いながらも、天の川の両岸に隔てられてしまった「織姫星」と「彦星」。しかし、一年に一度、七夕の夜にだけ、二人は会うことが許されている……。
 これは誰もが知っている七夕の伝説ですが、実に想像力豊かでロマンチックな話ですよね。夜間飛行では、星空がとても美しく見えることが多く、私もコックピットから「これは白鳥座で、あれは昴」などと、よく星を眺めています。今では星がなぜ輝き、どうして空に浮かんでいるのかをみんな知っていますが、現代のような科学的知識をもたなかった太古の人たちは、星の謎と同じく分からないことが多い男女の関係を結びつけて、七夕のような伝説を作り出したのかもしれません。
 さて、夜空を彩る美しい星ですが、一昔前まではパイロットにとって星は、夜間飛行の際、見える方角や角度から旅客機の位置を把握したり、飛行距離を測るのに役立つ大切なものでした。こうした計測方法を「天測」と呼び、かつてはコックピットに航空士(フライナビゲーター)といわれる専門の乗務員が同乗していました。
 その後、人工衛星を使ったGPS(全地球測位システム)など、機器の進歩によって、天測も航空士もその役目を終えましたが、意外なことに、世界で最もハイテク化が進んだボーイング777の登場で、再び星が旅客機の運航に欠かせないものとなりました。
 といっても技術的なことではなく、旅客機の“名称”です。日本航空ではボーイング777を導入した当初、「スタージェット」と呼んで、10機ある同機の1機ごとにシリウスやデネブといった一等星の愛称を付け、機体にそれぞれの星が輝く星座を描いていました。保有機数が増えた今では、星の名前で呼ぶことも少なくなりましたが、かつて私は、「ベガ(織姫星)」と「アルタイル(彦星)」にそれぞれ夫婦やカップルが乗り、七夕の日に、上空で擦れ違うように機材繰りをしてみたらと提案したことがありました。このアイデアは結局、実現しませんでしたが、ロマンのある話だと思いませんか。
 夏の夜空は、星だけでなく、流星などもきれいに見えます。皆さんも機会がありましたら、窓の外に広がる星空をご覧ください。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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