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コックピット日記
Captain 39
文=工藤英樹(日本航空機長)
Text by Hideki Kudo
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
角度にこだわる技術
「難しい角度からシュート!」
 いよいよサッカーW杯の開幕が近づいてきました。サッカーの国際試合では、さまざまな角度からシュートを決めたり、正確な角度でパスを出したりと、さすがにトップ選手はすごいと感心させられるプレーが数多く見られますが、微妙な角度にこだわるプロの技という点では、私たちパイロットとも共通点があります(ちょっと、強引ですが……)。
 たとえば、私が乗務しているボーイング747-400の場合、離陸時の上昇角度は、重量によっても異なりますが、国内線は水平線に対して20度近く、国際線は約15度機首を上げたり、旋回時は横に約25度傾けるなど、それぞれの状況に応じた角度で飛行しています。
 旅客機の角度を話題にするとき、意外と皆さんがご存じないのは「水平飛行」=「0度」ではないということです。旅客機は巡航高度に到達すると水平飛行に入りますが、構造上、左右の翼で揚力を得るなどの理由から、同機では機首を約2.5度上げて飛行しています。この角度を専門用語では「迎え角」と呼び、機体が完全に水平になるわけではありません。
 感覚の鋭い方でしたら、水平飛行に入ってからトイレを利用するとき、通路を前方へ歩くと上り坂のように、逆に後ろに向かって歩くと下り坂のように感じられるかもしれません。また、皆さんが座席で使用するテーブルにも、この「迎え角」を考慮して、同じ程度の傾斜が付けられています。
 私自身、日常生活において、特に角度に敏感というわけではありませんが、コックピットでは職業柄、1度や2度の差がとても気になります。特に、離着陸の際は旅客機の姿勢を保つことが重要で、機体の角度を示す計器が付いているものの、1度単位の微妙なバランスまでは正確に読み取れません。そこで長年の経験から得られる感覚と技術などを頼りに操縦桿を操作し、1度単位の微妙な角度を調整しているのです。
 ちなみに、機首を上げたり下げたりして角度を変える操作を「ピッチ・コントロール」といいますが、サッカーの試合場も「ピッチ」と呼ばれますから、ここでも共通点がある(?)かもしれません。
 W杯の期間中は、ドイツへ向かう大勢のサポーターのため、成田−フランクフルト(ドイツ)線でボーイング747-400が運航されます。日本代表へ寄せるたくさんの熱い応援も乗せて、私たちはドイツへ向かって飛んでいきます。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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