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コックピット日記
Captain 38
文=川村 求(日本航空機長)
Text by Motomu Kawamura
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
旅客機と花粉
 皆さんの中には、どのくらい花粉症で悩んでいる方がいらっしゃいますか。アレルギーを引き起こす花粉としては、スギ、ヒノキ、ブタクサなどが知られていますが、私も毎年、春になるとスギ花粉症に悩む一人で、本当に辛い日々が続きます。それでも、この時期になると、首都圏ではスギ花粉が終わりを迎えるので、ほっとひと安心することができます。
 さて、現代病ともいわれる花粉症ですが、運航乗務員の中にも結構、悩んでいる人がいます。パイロットだからといって何も特別なことはなく、クシャミ、鼻水、涙目、目のかゆみなどの症状は、皆さんとまったく一緒です。
 通常、アレルギー症状が出た場合、鼻炎薬などを服用するのが効果的ですが、パイロットには服用する薬に厳しい制限があります。例えば、鼻炎薬には眠気を催す可能性が少なからずあるため、専門医が処方した薬で、しかも服用する際は乗務まで一定の時間を空けなくてはいけません。ですので、ほとんどのパイロットは仕事に支障が出ないよう、乗務中でも使用できる点鼻薬や点眼薬を使って、辛い時期を乗り越えています。
 それだけではコックピットで大変だろう、と思われるかもしれませんが、意外にも旅客機の中は花粉が少ないのです。これは機内の空調設備と関係する話で、運航中の旅客機は、ジェットエンジンが作る圧縮空気の一部を取り込んで空調用の空気を作り出し、機内の温度と気圧を一定に保っています。この時に使用される圧縮空気は摂氏200度近くにもなるため、大気中に花粉があっても燃え尽きてしまいます。また、旅客機が運航するような高度には、そもそも花粉が存在していません。つまり、運航中の旅客機には、外部から花粉が入り込むことができないのです。
 それでは、どこから花粉が機内へ入り込むかというと、ほとんどは皆さんが搭乗される際に衣服や手荷物に付着しているものです。しかし、これらの花粉も、3〜4分ごとに新鮮な空気へと入れ替わるよう、常に循環させている機内の空調設備によって、旅客機が動き出してからしばらくすると、機外へ排出されます。
 花粉症は気合いで克服する、と言う方もいらっしゃるようですが、旅客機と花粉には、こうした興味深い関係があるのです。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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