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コックピット日記
Captain 28
文=高桑久仁昭(日本航空機長)
Text by Kuniaki Takakuwa
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
「挨拶」にも空の慣習
 グッド・モーニング、ボンジュール、グーテン・モルゲン、ブォン・ジョルノ、ニーハオ……。
 海外旅行をされるとき、皆さんは訪れる国で話されている挨拶の言葉を覚えて行くことと思います。また、ほとんどの国では、朝と夕方で挨拶の言葉が変わるため、滞在先の時間も意識されることでしょう。日本と外国の間にはたいてい時差があるので、無事に目的地へ到着したことを知らせようと国際電話をかける場合には、そうした時差を計算して、挨拶の言葉を選んだ経験をお持ちの方も多いと思います。
 私たちパイロットも、コックピットの中で、時差を計算して挨拶の言葉を選ぶことがよくあります。例えば、日本からパリへ向かう便は、シベリアから北欧、ドイツ、オランダなどの上空を飛行していきますが、その間、途中途中の航空管制官と交信する場合です。基本的に、交信のやりとりは英語ですることが国際ルールで決められていますが、最初と最後の挨拶や「ありがとう」などを、相手の国の言葉で話すのが空の世界では慣習となっているのです。
 コックピット内の時計は、機長と副操縦士の座る席に、それぞれ交信の際に使う世界共通の「グリニッジ標準時間」(ロンドンの時間)が表示されているのみで、現在飛んでいる場所の時間、例えばシベリアのいち地域の時間を示す時計はありません。そこで、私たちは頭の中で朝なのか、昼なのか、夕方なのかを計算して、現地の時間に合わせてロシア語で「ドーブルイ・ジェーニ」(こんにちは)や「ドーブルイ・ヴェーチェル」(こんばんは)などと、航空管制官に挨拶しています。
 また、ひと通り交信が終わり、最後にこちらから「スパスィーバ、ダ・スヴィダーニヤ」(ありがとう、さようなら)と挨拶すると、相手からも「サヨウナラ、ヨイタビヲ」と日本語で返ってきたりします。広大なシベリアの地方で、おそらく一度も日本人に会ったことがないかもしれない人から、こうして日本語で挨拶されると、とても親近感がわいてくるものです。
 お互いに住んでいる国や話す言葉、文化、習慣などが違っていても、ちょっとした挨拶を相手の国の言葉で話すだけで、打ち解けることができるものです。皆さんも、海外に行かれる際には、ぜひ積極的にその国の言葉で挨拶してみてはいかがでしょうか。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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