JAL | JAPAN AIRLINES

コックピット日記
Captain 21
文=工藤英樹(日本航空機長)
Text by Hideki Kudo
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
スター軍団を乗せたチャーター便
 もうすぐ年末ですが、皆さんはこの1年間どのような思い出を積み重ねられたのでしょうか?  私は今夏とても思い出に残る仕事をさせてもらいました。ベッカムやジダン、ロナウドなどが在籍する人気サッカークラブ「レアル・マドリード」をスペインから日本へ運ぶチャーター便です。通常は、定期便あるいは夏季繁忙期、年末年始などの臨時便に乗務していますが、時々このようなチャーター便があります。
 この便に乗務した運航乗務員、客室乗務員は全員フライト前からワクワクしていましたが、私も実際に操縦桿を握ると、いつも以上に気合いが入り、緊張していたように思います。なにしろこれだけのスター軍団ですから、周りからも「いいなぁ〜」と言われましたが、それなりの重圧もあったわけです。
 出発地となったマドリードは、現在、日本航空の定期便が飛んでいない空港です。そのため、かつてマドリード空港の運航経験がある機長からの説明を受け、事前に空港の資料、路線図などで準備することが必要になりました。チャーター便の場合、普段、利用していない空港を使うことがあり、こうした事前の勉強が多くなりますが、初めての都市へ行くのは、やはり皆さんと一緒で、私たちも旅心が刺激されます。
 さて、レアル・マドリードを乗せたチャーター便ですが、オーナー、監督やコーチ、選手、コーディネーターなど含めて、乗客は総勢90人ほどになりました。出発前にはマスメディアが押し掛けて、物々しい雰囲気が漂っていました。
 オーナーや監督はファーストクラス、選手はビジネスクラス、それ以外の人たちがエコノミークラスに座っていたようです。
 幸い当便は大した揺れもなく順調に運航できました。定期便の場合、予定到着時刻、あるいはそれよりも早く着くほうが喜ばれますが、今回のようなチャーター便の場合は、日本で出迎える側のスケジュールがあるために、できる限り予定通りの時刻に到着しなければいけません。大変、気を遣うところです。
 この日はあいにく定刻より多少遅れましたが、無事、成田国際空港に到着。機長としての仕事も無事終了。しかし……、安全な運航が任務の機長としては、結局、扉一枚挟んだ座席に座っていた選手たちと、全く接する機会がなかったことだけが、少し心残りとなったフライトでした。
images
日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

Copyright © Japan Airlines. All rights reserved.