「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain117 最高のバトンタッチ文=川添 剛(ボーイング737-800機長)
春の訪れが待ちどおしい季節となりました。皆さんのご家族やご友人にもいらっしゃると思いますが、3月から4月は卒業や入学、就職、転勤などで航空機を利用する機会も増えると思います。私たち運航乗務員はこの季節、お客さまに安心して空の旅を楽しんで頂けるよう、冬の名残の強い北風と、訪れる春の嵐に十分な注意を払い、地上スタッフと航空管制のサポートをいただきながら、運航を続けています。
地上での打ち合わせ時には、各種天気図、衛星画像、雲解析情報などをもとに、スタッフとルートの打ち合わせを行い、フライトプランを決定します。出発後はそのフライトプランで本当に正しいか、Plan(計画) -Do(実行) -Check(評価) -Act(改善)を繰り返していきます。最後のActを次のPlanにつなげ、螺旋を描くように一周ごとに仕事の内容を向上させて、継続的に業務を改善していきます。そもそもは1940年代後半から50年代に提唱された生産・品質管理の手法の一つですが、私たち乗務員の世界でもこれを原則として仕事に取り組んでいます。
さて出発後、特に長時間のフライトにおいて、このPDCA サイクルに欠かせない情報となるのが、「PIREP」と呼ばれるパイロットレポートです。簡単にお話をすると、民間航空機はほぼ決められた路線に従って、全世界共通のルールのもとに飛行しています。ほとんどの路線には先行する航空機が存在していますので、大きな気象変化が起きた場合には、必ず後方に続いている航空機の支援になるよう、情報を発信する取り決めになっています。これには世界の航空会社のほとんどが加盟しており、英語をベースにした同じ記号を使用しています。
主な内容は自分の操縦する航空機の便名、場所、高度、揺れの強さ、シートベルト着用の指示の有無、客室内でのサービスが可能だったか不可能だったか、などが報告の対象となります。基本的にはコックピットにあるコンピュータを通じて会社のオペレーションセンターを経て、各社へリリースして情報を共有していきます。お客さまに快適な旅をお約束し、最高のバトンタッチができるようにすること、これは私たち運航乗務員はもちろん、航空に関わるすべての人の想いです。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)

