「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain113 台風の際には文=南雲 恒昌(ボーイング767機長)
南の海上で台風が発生。北よりの進路をとり、日本に接近するでしょう──。
秋本番を迎えるこの時期、天気予報で台風の情報を耳にする機会も多くなり、旅行やビジネスなどで旅客機を利用される方にとっては、心配が増えてきます。
台風で、旅客機が運航できなくなる主な理由は「風」です。各旅客機は機種ごと、空港ごとに横風の制限値が設定されており、真横からの風の成分が概ね風速二五ノット(秒速約一二・五メートル)※を超える場合には、滑走路を使用できません。そのため、出発地や目的地の空港で風が強い場合は、運航中止となることもあります。
一方、飛行経路上に台風がある場合は、風が強く、揺れる空域を避けて運航します。
今年、私が担当した羽田空港と松しょうざん山空港(台北)を結ぶフライトでは、行きと帰りのそれぞれで途中に台風があり、飛行経路を大きく変更することになりました。このような場合、同じ方向へ向かう他の旅客機も台風を迂回するため、飛行ルートは混雑します。迂回によって飛行距離が長くなることと、混雑のために、飛行時間が通常よりも長くかかったりします。「高度を上げて、台風を飛び越えてしまうことはできないの?」
このように思われる方もいらっしゃるでしょう。
発達した台風は、その背丈が高度一万メートル以上となり、旅客機が巡航する高度よりも高い位置まで激しい揺れなどの影響が及びます。そのため、台風の上を飛び越すことは難しく、迂回するのが最善策となります。
しかし、場合によっては、台風を突っ切ることもあります。台風の風の強い空域は、地表から上空まで一様になっているわけではなく、砂時計のように中央部が狭く、下端部(地表付近)と上端部で広くなっているという特徴があります。台風の状態によっては、安全を確認した上で、風があまり強くない中央部付近を運航することがあり、私自身、飛行高度をそれほど高くとらない羽田空港と伊丹空港を結ぶフライトで、二度、突っ切った経験があります。
台風の周辺では多少、揺れるのですが、台風の目に入った途端、一転して雲がなくなり、風も穏やかになるのは不思議な感じでした。
そんな台風時のフライトですが、機内アナウンスで運航状況を詳しく説明し、揺れに備えて、ベルト着用サインを長く点灯することになります。ご不便をおかけしますが、安全運航へのご協力をお願いいたします。
※路面が乾いている状態での制限値で、雨や雪などで滑りやすくなる状況、滑走路の表面加工などに応じて、制限値は変わります。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)

