「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain107 あうんの呼吸文=川添 剛(日本航空機長)
滑走路へ着陸し、駐機スポットへ近づいてくる旅客機。
フライトの搭乗開始を待ちながら、そうした様子を眺めていると、「あれっ、台に上って、旅客機に指示を出すスタッフがいなかったっけ?確か、前はいたよなぁ」などと、思われたことはありませんか。
この旅客機を誘導する担当者は「マーシャラー」(航空機誘導員)と呼ばれています。旅客機を停止させる際、コックピットから停止位置が見えないため、マーシャラーは両手に日中なら「パドル」と呼ばれる黄色や赤色の大きなしゃもじ型の道具を、夜間なら光を放つ「マーシャリング・ライト」を持ち、旋回・直進・徐行・停止などの合図を送り、正確な停止位置まで誘導します。
大型旅客機の場合、コックピットは高い位置にあり、マーシャラーは「マーシャリングカー」と呼ばれる車両に付いた昇降機に上って合図を出すので、そうした光景に見覚えのある方も多いでしょう。そんなお馴染みの光景が、なぜ見られなくなったのかというと、画面で停止位置をパイロットに知らせる「駐機位置指示灯」(※VDGS)を備えた駐機スポットが増えているからです。
この装置は、赤外線レーザーによって駐機スポットへ近づいてくる旅客機の位置や速度を正確に計測し、電光掲示板に左右のズレ、停止位置までの残りの距離を表示してパイロットに知らせてくれるもので、コックピットから見て正面に見えるターミナルビルの壁に取り付けられています。私たちパイロットはVDGSの電光掲示板の表示を見ながら、ゆっくりと駐機スポットへと進んでいき、停止位置に近づくと、残りの距離が20センチ刻みで表示されるようになり、最終的に「STOP」の表示に変わったところで旅客機を停止させ、パーキング・ブレーキをかけています。
国内の主要空港ではVDGSが標準装備されるようになった一方で、地方空港ではマーシャラーによる合図を行っているところもありますし、例えば羽田空港でも、「沖止め」といって、ターミナルから離れたところに旅客機を駐機させる場合には、マーシャラーが登場します。パドルやマーシャリング・ライトの動きに合わせて旅客機を進め、お互いのタイミングが合い、「あうんの呼吸」で停止線にぴったりと停めることができたときは、気分がいいものです。
旅客機の運航は、マーシャラーをはじめ、多くの地上スタッフにも支えられています。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)

