「コックピット日記」は4人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain105 特殊な前輪文=中村貴幸(日本航空機長)
インターネットを見ていると、旅客機に関するQ&Aに多くの書き込みがあります。
先日、私が担当しているMD-90について、「前輪に、他の機種には見られない横に出っ張った部品が付いていますが、あれは何ですか?」といった質問が寄せられていました。
これに対し、「当初、滑走路が舗装されていない地方のローカル空港も想定していた機種であり、砂利などを巻き上げて、機体下部を損傷しないようにするためのものです。そうした空港に縁がなくなった現在でも、装備されたままになっています」といった回答が載っていました。
質問された方は、本当によく旅客機を観察しているなぁと感心しますが、答えがやや違っており、きっと知らない方も多いので、少し解説してみたいと思います。
空港の搭乗口などから眺めると、よく分かると思いますが、MD-90の前輪には横と後ろを保護するように、金属製の部品が付けられています。これは「スプレー・ディフレクター」と呼ばれるもので、雨の日などに、タイヤが跳ね上げる水を防ぐための装備です。
MD-90では、機体のお尻の部分に、二つのメインエンジンが付いており、離着陸の滑走中、前輪の跳ね上げる水がエンジンに吸い込まれやすくなります。通常の雨などは問題ないのですが、大量の水が一気にエンジンに入ると、推進力などのパフォーマンスに影響が出てしまう可能性があり、それを防ぐために跳ね上げ防止装置≠ェ取り付けられているのです。
また、あまり目立ちませんが、後輪にも「スプレー・ディフレクター」が付いています。
主翼にメインエンジンが付いている旅客機の場合、タイヤとエンジンの位置関係から、水が跳ね上げられても、大量に吸い込まれる懸念はなく、前輪に特別な装置は必要ありません。また、後輪はエンジンの吸い込み口よりも後方にあるため、水を跳ね上げても問題は生じません。
ちなみに、出発時、旅客機は「トーイングカー」(牽引車)に押してもらい、駐機場を離れますが、多くの旅客機では、前輪の中央部にフックがあり、そこに「トーバー」と呼ばれる接続用の棒をつなぎます。これに対し、MD-90にはこのフックがないため、「スプレー・ディフレクター」ごと前輪を挟み込んで接続する専用のトーバーが使われます。
次回、MD-90に搭乗される機会がありましたら、ぜひ前輪に注目してみてください。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)

