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Captain 4 |
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文=北村信一(日本航空機長)
Text by Shinichi Kitamura
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo |
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間もなく梅雨が明け、暑い夏の到来。澄み渡った青空に、真っ白に輝く入道雲(積乱雲)がもくもくとわき上がる季節です。
機内の窓から眺める入道雲は、雄大で美しい姿をしていますが、こうした外見とは異なり、雷や突風を引き起こす怖い雲でもあります。「美しさに誘惑されても、絶対に近付くな」。パイロットの間ではこう言われています。
日中や満月の夜は入道雲を目視できますが、新月などの暗闇になると困難です。旅客機の機首部分には小型の気象レーダーアンテナが備え付けられていて、前方に広がる空の気象情報がコックピット内の画面に常に映し出されています。飛行中のコックピットでは、レーダー画面に気を配りながら、常に入道雲を監視しています。
普通の入道雲の場合、大きさはせいぜい直径20キロ程度ですので、ルートを変更して迂回することができるのですが、なかには何個も集まって、直径100キロ、200キロにも及ぶ悪天域を形成していることもあります。赤道付近を通過する東南アジア線やオセアニア線などでは、飛行ルートのあちこちに入道雲が待ちかまえていることも珍しくありません。
こうした場合、複数の入道雲を右へ左へと避けて飛行するルートを探すことになります。機内に座席ベルト着用のサインを点灯し、客室乗務員にも着席を命じ、アナウンスで皆さまに着席のご協力をお願いすることになります。
気象レーダーを細かくチェックし、安全なルートを飛行しますので、こうした状況下でもほとんどの場合、軽微な揺れだけで済みます。皆さまの中には「大げさな準備のわりに揺れなかったじゃないか」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、入道雲は予想外の影響を及ぼすこともあり、細心の注意が必要なのです。
以前、福岡に向けて飛行中、周防灘方面に見事な入道雲を発見しました。「これは大きいな」と私が思わずつぶやくと、「なかなかですね」と副操縦士も応じたほどです。しかし、一時間半後に同じルートを戻ったときには、その入道雲の姿は見当たらず、すでに消滅していました。「逃げられたな」と笑ったものですが、それほど天候の移り変わりは早いのです。
私たちを緊張させる入道雲。旅客機をご利用の際には、座席ベルト着用のサインにご協力いただくと同時に、安全のため飛行中は常に座席ベルトの着用をお願い申し上げます。 |
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| 日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載 |
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