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コックピット日記
Captain 1
文=北村信一 (日本航空機長)
Text by Shinichi Kitamura
イラスト=國友主税
Illustration by Chikara Kunitomo
空から桜を眺めると
 春になると暖かさがぐんと増します。この時期、乗務で日本各地を飛んでいると、桜が満開の地域があれば、既にお花見が終わったところ、雪解けで桜前線の北上を心待ちにしているところなどさまざまで、日本列島がいかに南北に長いのかを実感させられます。そこで今回は春にちなんで、操縦席から見える桜についてお話ししましょう。
 以前、友人に「着陸するときに、ちょうど満開の桜が真下に見えて、本当にきれいだった。枝の一本一本に手が届きそうだし、上から見下ろす桜は立体感がある。そんな光景を操縦席から眺められる君がうらやましいよ」と言われたことがあります。しかし、実際には、飛行中の操縦席は桜を観賞するのに最も不向きな場所なのです。
 確かに外の景色はよく見えるのですが、離着陸の最中は幾つもの計器や外部の監視、安定した操縦に神経を集中していますので、景色を楽しむ余裕はありません。中でも着陸の前は、旅客機の姿勢を表示する計器、速度計、高度計、方位指示器、エンジン推力計などの計器類、それに迫ってくる滑走路を効率的に「スキャン」することが必要です。
 ここで言う「スキャン」とは、視線を素早く動かして、瞬時に必要な情報を読み取る動作のことです。計器の指示は刻々と変化しますので、一つの計器に注意を取られていては対応が遅れてしまいます。安定した操縦のためには、これらの変化に素早く気付き、少ない操舵とエンジンの微調整で修正することが重要で、パイロットに不可欠な能力となっています。
 そのため、着陸の際に地上の景色を眺める余裕はなく、まして桜をじっくりと見ることはほとんど不可能なのです。
 それでも、あえて操縦席から見える桜をご紹介するならば、熊本空港でしょうか。空港北側の境界沿いに見事な桜並木があり、多くの家族連れが、旅客機見物を兼ねて和やかにお花見をしています。滑走路に向けて誘導路を走行する際に、そうしたのどかな光景が目に入ることもあります。
 さらに、函館の五稜郭も特筆できます。函館空港に視認進入で東南東に向けて着陸する場合、五稜郭は最終旋回開始の良い地点目標になります。満開のころには、ほんの一瞬ですがポッと桜色が浮き上がって見えることがあります。
 そうした瞬間に出合えると、この日に乗務できたことを感謝したい気持ちになります。
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日本航空月刊誌『Agora』2003年より連載
 

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