コックピット日記

「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。

Captain 152 航空機の不思議文=椎名 拓(ボーイング777 機長)

 読者の皆さま、こんにちは。
夏本番を迎え、お子さま連れのご家族にお目にかかる機会が増えました。空港で毎年、お子さまから様々な質問をお受けします。今回は、そのいくつかを、フライトの流れに沿ってお話しさせていただければと思います。

 お客さまがご搭乗されて出発準備が整うと、航空機は駐機場から滑走路へと地上走行していきます。離陸の順番を待つなか、ポーンポーンと機内に響く電子音を聞いたことはないでしょうか。
あるお子さまが疑問に思われていたこの音は、「管制から離陸許可が下りたので、離陸します」というパイロットから客室乗務員への合図です。ステライルコックピットといって、航空機が地上走行時、および高度約3000m以下を飛行する間、客室乗務員からコックピットへの連絡は原則禁じられています。ポーンポーンという音は、安全のために生み出された合図音なのです。

写真  お子さまから受ける質問のなかでも多いのが、「航空機の操縦は難しいか?」というものです。
説明が難しいこの質問、私は時に"操作レバーの秘密"についてお伝えします。進化し続ける航空機ですが、人間工学を考慮した工夫も取り入れられています。その1つが、操作レバーの形です。車輪の出し入れを操作するランディングギアレバー、揚力を得るためにフラップ※の角度を調整するフラップレバー。この2つのレバーの誤操作を防ぐため、ギアレバーは車輪の、フラップレバーは翼の形をしたノブがつき、ひと目で判るようになっています。航空機は操縦が簡単な乗り物ではないかもしれませんが、パイロットが厳しい訓練を受けて技量を磨くことに加えて、機器自体の作りにも工夫を凝らすことで、より安全の層を厚くしています。

 航空機は徐々に高度を下げ、やがて着陸体勢に入ります。着陸の際、機体が接地した時の体感がその時々により何故異なるかも、よくお受けする質問です。実は、空港特性や気象条件などに応じて最適な着陸の仕方は変わります。
例えば、滑走路が短く、滑走路面が雪氷により滑りやすい状況下では、接地目標に確実に接地し、停止までの距離を短くする必要があるのです。状況に応じて異なってしまう着地時の感覚ですが、安全と快適性のバランスを図り、できる限りスムーズな着陸を心がけています。

 航空機のことをより知っていただくことで、空の旅が少しでも楽しくなるようお手伝いができましたら幸いです。夏の思い出が素敵なものとなりますように。

※主翼後方部に装備されている高揚力装置。

日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)