コックピット日記

「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。

Captain 150 フライトバッグに憧れて文=南雲恒昌(ボーイング767 機長)

 皆さまこんにちは。今回は、よくご質問をいただく"パイロットが持つ鞄の中身"についてお話しさせていただきます。

 空港で、パイロットがキャスター付きの大きな黒い鞄を引きながらゲートへと向かう姿を見かけたことはないでしょうか。パイロットが使用する鞄は、フライトバッグと呼ばれています。ずっしりと重そうに見えますが、中に入っているもので最も重いのは、マニュアル類やジェプセンチャート(航空図)です。あらゆる事態を想定し、自身が保有する資格で着陸可能な空港の関連書類全てを持ち歩くため、かなりの重さになってしまうのです。そのほか、基本アイテムとして、常に携行を義務づけられている、航空英語能力証明・技能証明書などの各種免許類、飛行時間や航空機の型式を記入するフライト・ログブックなどがあります。それ以外に各国入国時に必要なパスポート・税関申告書、フライト用の手袋、サングラスといったものがあります。また、日本の地図も入れています。パイロットは元々地図が好きな人が多いのですが、私も例外ではありません。地図通りの形の下北半島を初めて機上から見た際には大変感動しました。こうした地図はアナウンスでお客さまにご案内する際に役立つため重宝します。そのほか、私はどの地に降り立っても困ることのないように各国の通貨も準備し、現地ホテルの封筒に入れて、一目で分かるようにしています。

写真  あの真っ黒なフライトバッグは、私にとって子供の頃からパイロットの象徴でした。訓練生になりたての頃、初めて黒いフライトバッグを支給され、やっとパイロットになるのだと、心の底から嬉しく感じたことを覚えています。副操縦士になってからもずっと大切に使っていたのですが、数年前、ついに壊れてしまいました。今ではホームセンターで見つけた鞄を持ち歩き、あの黒いフライトバッグは、思い出として大切に家で保管しています。

 電子化の流れが急な昨今、航空業界も同様で、マニュアル類や航空図を電子化しiPad一台で管理するEFB※の試験運用が始まりました。軽量化に加え、月に数度、手作業で差し替えて更新していた航空図が自動で更新されるなど、非常に効率的な側面が評価されています。いずれは大きな鞄を持ち歩く必要もなくなり、小さな鞄を片手にゲートへ向かうパイロットを目にする日も、そう遠くはないかもしれません。

※EFB: Electronic Flight Bag

日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)